Voyager
#18

アートに泊まる、アートを楽しむ。
アートとの架け橋を作るBnA HOTEL
田澤悠のリデザイン

田澤悠|BnA株式会社代表取締役

ガレージ文化からアートが生まれる。遊びの中にアートがあったアメリカ時代

一般客にも開放されている日本橋のSTAND BnA。コーヒーやランチを楽しみながら、宿泊客やアーティストと交流することも出来る。

「今でこそ日本に腰を落ち着けていますが、子どもの頃は両親の仕事の都合で海外生活が当たり前でした。大学は両親の元を離れて、フィラデルフィアの大学に進学。そこでバーニングマン(のコミュニティ)と出会いました。フィラデルフィアは物価が安いのでアーティストが移り住んでくるんですね。学生の街として、学生数がボストンの次くらい。学生もアーティストも大勢いる中で、大学に行きながら遊んでいました。バーニングマンのコミュニティにも出入りしていて、廃墟をDIYでデコレーションして一晩パーティーをするなんてことをやっていました」

バーニングマンとは、アメリカのネバダ州で年に一度開催されるアートの祭典。1986年から開催されており、自由な発想で生み出されたアートインスタレーションを楽しむことが出来ます。年々拡大傾向にあり、テスラCEOのイーロン・マスクや、Metaのマーク・ザッカーバーグも訪れるのだとか。

入口付近に設けられた照明にも、こだわりが詰まっている。

「共同創業者の福垣慶吾もサンフランシスコで同じような体験をしていて、バーニングマンのコミュニティを通して知り合いました。みんなで面白いと思うもの、格好いいと思うものを作って、他の人たちに楽しんでもらいたい。それが僕らの共通意識であり、初期衝動でもあります。日本との違いで言うと、アメリカはそもそもDIYカルチャーが強いんです。何でも自分で作って切り拓いていく精神を持っているんですね。ガレージ文化※も強くて、自分なりのプロジェクトを持ってモノ作りやイベントの企画をしています。アートはその延長線上にある気がしていて、そんなところが僕の性分に合っていました」

※日曜大工から趣味まで、様々なことをガレージで楽しむ文化。ガレージバンドは、防音性に優れたアメリカのガレージにお金のないバンドマンたちが集ったことで生まれた。

大学卒業後、田澤さんはボストンコンサルティンググループに就職。コンサルティングの経験を積む傍ら、民泊の会社を経営。独立後はインドネシアでヘアサロンを立ち上げ、フリーでヘルスケア領域のコンサルティングを請け負うなど、これまで関わってきた領域は様々。民泊事業の一環として、池袋の民泊の部屋を2015年にリノベーションしたことが転機になります。

アーティストへのレベニューシェアと、コミュニティ形成。アートを中心に据えたユニークなホテル経営

「民泊も増えてきて、単に民泊を経営していくのは面白くない。そう考えていた時に、当時はまだ別々に動いていた福垣から、彼が手掛けたとある企業の内装の話を聞いたんです。アーティストを起用し、いわゆるアートオフィスを作っていたんですね。同じ試みを民泊で実験的にやってみるのはどうだろうと考えて、何でも自由にやらせてくれる物件を探し始めました。それが池袋だったんですね。BnA HOTELではアーティストに利益を配分する仕組みがあるのですが、池袋の時から同じ試みをしていました。当時はアートだけで生活していける人間は一握りで、そのサポートもしたかったんです」

現在、世界の美術市場の中で日本市場が占める割合は2~3%程度。当然のことながら市場規模は大きいとは言えない状況ですが、それでもここ十数年で状況は変わってきました。成功を手にした若手実業家による蒐集(しゅうしゅう)や、様々な商業施設でのアートの展示や広告への起用など、ほんの一握りのアーティストしか食べていけない状態から変わりつつあります。

BnA HOTELもまた、日本のアーティストの状況をリデザインしていく手助けをしています。

BnA_WALLのスイートルーム『昼がみた夢』。「アートに泊まる、パトロンになる」を掲げ、宿泊費の一部がアーティストに還元される。 Photo by Kengaku

「このホテルが旅人(宿泊客)と地元のアーティストが交流できる場になって欲しいという想いも込められています。日本橋(取材場所)はBnA HOTELしては四拠点目なのですが、地下がアートファクトリーという制作現場になっています。ロビーから見える巨大な壁画は、アートファクトリーで描かれているもので、様々なアーティストに参加してもらっています。季節の移り変わりとともにアートが切り替わるので、訪れる度に楽しめると思いますよ」

壁画の制作風景と、完成した壁画。時の移り変わりとともに、様々なアーティストが参加する。 Artist:Yohei Takahashi / 高橋鉄平 Title:Scene 0402 / 場面0402 Photo by Yohei Takahashi / 高橋鉄平

Artist:Schoko Tanaka / 田中尚子 Title :TROPIC Photo by Hiroaki Sugita / 杉田拡彰

BnA HOTELの宿泊料金は、アーティストへのレベニューシェアを考慮して、平均三万円前後(一泊の値段。部屋ごとに料金設定が異なります)。その利用客の殆どを、海外からの旅行客が占めています。取材中も海外の滞在客がロビーを訪れては、思い思いに過ごしていました。BnA HOTELは海外のメディアで取り上げられることが多く、情報を得た人々がこぞって訪れるそうです。

「外国の方に多く利用いただくので、コロナ禍の時は大変でしたね。日本橋は元々2020年に開業する予定だったのですが、2021年に遅れてオープン。三井不動産との協業プロジェクトなので、大分バックアップしていただきました。他の拠点も含めて生き残ることが出来たのは、競合となるようなホテルがない点も大きかったと思います。通常、ホテルの経営は予定調和を目指します。部屋、価格帯などをパッケージ化することで、業務を一本化しているんですね。その点、BnA HOTELは一室一室がまったく異なる作りになっています。部屋ごとにオペレーションが違ってきますし、フロントマンは当然部屋の説明が出来なければならない。アートとの出会いはいつだって思いがけなく、予定不調和のようなものです。一般的なホテル経営の真逆だからこそ、唯一のサービスでいられるのだと思います」

BnA HOTELの従業員は、その多くがホテル業界未経験者。他とは異なる柔軟な発想で作られたからこそ、様々なバックボーンを持った人々が引き寄せられているのでしょう。

町おこしよりも、地域に根差したアート体験を届けたい。BnAが目指す、リデザインなアート体験

続けてお伺いしたのは、アートによる町おこしの可能性について。田澤さんの原体験となったバーニングマンでは、金銭の授受が原則として禁じられています。物々交換や、純粋な贈り物として水や食料を得ることが出来るのです。資本主義から解き放たれた独自のルールを持った町が、バーニングマンが行われる七日間に生まれている、とも言えます。

「町おこしにまで広げていくのは少し難しさを感じています。BnA HOTELのホームページを見ていただきたいのですが、アーティストの意図や想いがこもった部屋紹介をしています。BnA HOTELの『アートに泊まる、パトロンになる』というコンセプトに共感いただき、アーティストの個性を知った上で、宿泊客と部屋がマッチングするような仕組みになっているんですね。つまり、コンテクストを理解した上でご利用いただいているということです。東京にいる僕たちが地方に行って、何となくアートの箱を作るだけではコンテクストは生まれません。地域に密着していることが重要だと思います」

瀬戸内国際芸術祭のような成功例はありつつも、利益が優先とされる価値観の中ではバーニングマンのようなものは生まれてこないのかもしれません。

BnA HOTEL KOenji。

「地域に密着するという視点はBnA HOTELにもあります。日本に戻ってきてからは高円寺に住んでいて、ギャラリー運営や壁画を手掛けていました。高円寺という拠点からアートを広げていくためにはどうすればいいのか。アートを販売するのであれば、僕らよりも長けている人が大勢いる。じゃあ、出来るのは“場の提供”だよねってスタートしたのが高円寺のBnA HOTEL一号店でした」

町おこしほどの規模ではなく、BnA HOTELという拠点を軸にアートとの接点を創り出していく。その試みの一つとして、2023年の12月には日本橋のホテルを舞台とした演劇『Anima(アニマ)』の公演が決定しています。

「イマーシブシアターという体験型の演劇形式を取っています。BnA_WALLではホテル一棟を贅沢に使用。ロビーや階段はもちろんのこと、アーティストが手掛けた26室も舞台になっています。色々な場所で突発的にパフォーマンスが始まるので、観客一人一人で目にするシーンが異なります。また、演者が観客を誘導する形になっていて、気づけば作品世界の中の溶け込んでしまっている。そんな不思議な体験をお届けできると思います」

『Anima』予告。ノンバーバル(非言語)なパフォーマンスが繰り広げられる。

『Anima』を担当するのは、イマーシブシアター制作チームの『daisydoze(デイジードーズ)』と、東宝株式会社の演劇部。世界にも類を見ないユニークなホテルで繰り広げられるイマーシブシアターは、アートへの価値観をリデザインしてくれることでしょう。

未経験でも恐れず飛び込んでいけ。人生を変えるためのリデザインな考え方

『Anima』の他にも、田澤さんは遊び心たっぷりの試みを常に仕掛けています。365日、オリジナルのモンスターを描き続けるアーティスト『TOMASON』とのコラボレーションでは、アートファクトリーで超体験型のアトラクション 『TOMASON LAND』を開催。アートを楽しみつくす感覚が溢れています。

おもちゃ箱をひっくり返したような『TOMASON LAND』。田澤さんと一緒に映っているのがアーティスト『TOMASON』。

「こんな仕事をしていますが、僕にも“これは分からないな…”という作品はあります笑。でも、アーティストから制作意図や工程を聞くと、腑に落ちることが多々あります。アートという言葉を怖がる必要はないと思うんですよね。ギャラリーのコンセプトを見ると、ちょっと身構えてしまうようなテキストが書いてあることはありますし、何百年と続いてきたアートの歴史の流れを組むものもある。でも、音楽と一緒で、クラシックなものもあれば、ポップなものもあります。ぱっと見の印象で楽しんでもらえたらなと思っています」

アートと人々を繋げる田澤さんの試みはこれからも続きます。

最後に、人生をリデザインするヒントをお伺いしました。

「これは僕の勝手な解釈なのですが、アメリカ人が小さなプロジェクトを持ちたがるのは、アメリカという国の歴史の浅さ故だと思うんですよね。歴史がないからこそ、自分たちでアイデンティティを探し求めている。それと同じで、人生をリデザインしたいのであれば、自分なりのプロジェクトを持つことです。未経験でも関係ありません。ここに飛び込んだら、もうやるしかない。そんな環境に自分を放り込んでみるんです。手探りでも、とにかくやってみることで段々その業界の仕組みや、どう段取りすればいいのかが見えてくる。そして、そのアクションに興味を持った人たちが集まってきます。恐れずに進んでいくと新しい出会いと発見が待っていると思いますよ」

Profile

田澤悠|BnA株式会社代表取締役

兵庫県生まれ。幼少期をスペイン、イギリス、アメリカで過ごす。ボストン・コンサルティング・グループを経て独立。ジャカルタでサロン事業やヘルスケアアプリの開発、各種経営コンサルティング、民泊事業など、国内外で幅広い事業を手掛ける。2015年BnAを設立し、アートホテルの企画・運営や経営コンサルティング、街づくり事業などを展開する。

BnA HOTEL 

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