Voyager
#12

今日何を着るのか。
その選択の一つ一つが未来を変えていく。
ECOALF下川雅敏のリデザイン

下川雅敏|サステナブルファッションブランド【ECOALF】

世界2位の環境汚染産業と言われているファッション業界。労働力や原材料含めて、これまでの業界の在り方のリデザインを求められている状況にある中、サステナブルファッションブランドを0→1で立ち上げるという動きが生まれきています。その中の一つがスペイン発のサステナブルブランド『ECOALF』。ECOALFではすべてのアイテムをリサイクル・アップサイクル素材で生産。中には廃棄タイヤやコーヒー豆を原材料にしたものもあります。

そんな『ECOALF』の国内展開をスタートさせたのが日本の老舗アパレルメーカーの三陽商会です。日本法人ではアサヒユウアスやPanasonicといったパートナーと日本独自の施策を展開。2022年には日本のファッションの中心地の一つである渋谷に店舗を構えました。三陽商会が『ECOALF』とともに、日本のファッション業界をどうデザインしていくのか。下川雅敏さんに話を伺いました。

よりよい環境を次世代に引き継ぐために。ECOALFと三陽商会が挑む日本ファッション業界のリデザイン

渋谷スクランブルスクエア店の至るところにメッセージが掲げられている。

ファッション業界が世界2位の環境汚染産業と言われる所以の一つに、衣服の廃棄量があげられます。トレンドに則した衣服を多くのブランドがリリースしていますが、売れ残った衣服の行く末は廃棄です。その量はシーズンごとに生産される衣服の実に73%近く。毎年、おびただしい量の衣服が誰にも使われることなく廃棄されているのです。

きらびやかな「トレンド」という言葉の裏側に潜む、歪な産業構造。環境への負荷だけではなく、下請け業者の劣悪な労働環境も明るみになり、従来の在り方を正面から問われているのが現在のファッション業界です。

「サステナブルファッションを日本で議論する時、その話題はリサイクル素材の是非に集中することがほとんどだと思うのですが、世界では人権問題や環境貢献も含めて広い分野での取り組みがブランド側に求められている状況です。私たち三陽商会は日本のアパレルメーカーでもありますが、海外ブランドとライセンス契約を結び販売するビジネスも展開しています。海外の状況はパリの展示会などで分かっていましたので、弊社としてもサステナビリティの教育やサステナブルファッションに関わる取り組みを進めていくことになりました。ただ、新しいブランドを立ち上げるのは難しかったんです。これまでのアパレルブランドとは異なった発想を発見するようなものですから。そんな中、我々の目に留まったのがECOALFでした」

ECOALFの「O」は循環を象徴している。

ECOALFはハビエル・ゴエネーチェ氏が2009年に立ち上げたスペインのブランド。「Because there is no planet B(=第2の地球はないのだから)」をスローガンに掲げ、次の世代によりよい地球環境を受け渡すことを目的としています。特徴的なのは、全アイテムに使われている素材。海に漂着したペットボトルや漁網などを繊維にアップサイクルし、ファッションアイテムへと生まれ変わらせています。そして、ECOALFの衣服を手に取ることで環境への意識を変えて欲しい。そんな想いも込められたブランドです。

「ECOALFは、サステナブルファッションにおいては間違いなくリーディングブランドです。ただ、日本のサステナビリティへの捉え方や関心の高さが海外諸国と比べ10年ほど差があると言われる中、ECOALFはアジア進出のきっかけを掴めずにいました。一方で、三陽商会はサステナブルブランドを探していたタイミング。こうして、日本でジョイントベンチャーを設立することになったんです」

それが、下川さんが取締役を務めるエコアルフ・ジャパンです。下川さんが三陽商会に入社したのは2006年のこと。当時の大手ライセンスブランドで経験を積んだ後、ニューヨーク支社に転勤。その後もマッキントッシュ ロンドンの企画MDやセレクトショップ事業など、「ブランドを日本の消費者に届ける」経験を重ねていきました。そうした背景もあり、ECOALFとの契約にも深く関わることになったのでした。

コロナ禍をきっかけに広げた“4つのつながり”

エコアルフの国内展開は2020年の3月から。原宿のキャットストリートに店を構えました。しかし、タイミング悪く世界はコロナ禍に突入。外出が極端に減り、衣服の需要がもっとも落ちた時期でした。原宿からの撤退を余儀なくされたエコアルフ・ジャパンでしたが、それを契機に日本法人ならではの動きを見せていくことになります。パナソニックや、アサヒユウアスといった、一見アパレルとはあまり関係のない企業とパートナーシップを結び、次々とコラボレーション商品を発売し始めたのです。

ECOALF×アサヒ×パナソニックで次世代に向けた新しいライフスタイルを提案するプロジェクトUPCYCLE Bから生まれた、UPCYCLE B タンブラー。

「消費者との直接的な接点を失ったことで、このブランドを日本で継続させるためには服を売る以外のアプローチが必要だと考えました。大きく4つあるのですが、1つめが行政や環境省と関わりエコアルフ・ジャパンの活動を広めること。2つめが、芸能人やインフルエンサーなどの影響力の強い方たちと連携することで、認知を獲得していくことです。海外ではブランドの背景が評価されやすい風潮があるため、サステナブルファッションブランドが受け入れられやすいのですが、日本ではデザインやトレンドが先ず評価されます。そこを覆すためには、とにかく知ってもらうことが重要だと考えたんですね。そして、残り2つの取り組みについても異分野との協業を通じて、ユーザーの間口を広げています」

その中の一つが、企業との連携です。

「ファッション業界におけるコラボレーションは通常、ファッションブランド同士で行うものですが、私たちはそこにこだわりません。コラボレーションすることで、お互いのフィールドにいるユーザーにどうリーチ出来るのかを意識して、タッグをお願いしています。たとえばアサヒユウアスさんとパナソニックさんが手掛ける森のタンブラーは、不要な木材をタンブラーにアップサイクルした素晴らしいアイテムです。その反面、世間への浸透度は今ほどではありませんでした。ファッションは注目度の高い業界ですから、一緒にお取組みさせていただくことで、良い相乗効果が生まれるんじゃないかと思ったんですね。そこからはコラボした森のタンブラーの製作、製品の魅力を伝えるためのイベントの場を設けてと、急ピッチで動いていきました。反響もよく、ユーザーのライフスタイルへアプローチしていくことへの手応えを感じた一件です」

同じアパレル業界という括りの中では、スニーカーセレクトショップ「atmos」とコラボし、別注のスニーカーをリリースしている。

「エコアルフ・ジャパンの活動を広める上で要になるのは、ユーザーとのコミュニケーション。今を生きる若い世代が、サステナビリティに対してどのような価値観を持っているのかは、彼ら自身が一番知っていますからね。学生時代から環境教育の時間が設けられていることも、我々のような世代とは異なっています。エコアルフ・ジャパンを広げていくためにはどういったコミュニケーション手法がいいのか、そのコミュニケーションをするために足りない要素は何なのか。といったことを、彼らから学ばせてもらっています。学生と協業したプロダクト開発も行っていて、中には商品開発に進んだものもあるんですよ」

リアルな店舗を失ったからこそ見出した4つのつながり。その輪はエコアルフ・ジャパンの活動内容を大きく変えるものになりました。ブランドがスタートしてからの2年間で力を蓄えたエコアルフ・ジャパンは、リアルな接点を求めて2022年9月に再び店舗を構えます。場所は日本のファッションの中心地のひとつである渋谷。二度目のチャレンジにかける想いについてお伺いしました。

訪れるだけで環境問題を体感。通常のアパレルブランドには見られない店づくり

エスカレーターを登ると、真っ先に店舗が見える作りになっている。

「産学連携の話と少し重なる部分もあるのですが、彼らと話しているとサステナビリティへの意識が高い子も、そうでない子もいることがよく分かります。これからの社会は彼ら若い世代が作っていくので、意識をリデザインしていくようなアプローチが出来ないかなと考えたんです。実は2020年の出店の際も若い世代とのコミュニケーションのためにイベントスペースを作っていました。コロナ禍で活用できずに終わってしまったのですが、渋谷エリアに再出店するにあたっては「出会い」を重視しています。ブランドや環境問題に関心を持って店舗に足を運んでくださることはもちろんありがたいのですが、買い物を楽しんでいるときに何気なくエコアルフが目に留まり、それがブランドや環境問題を知るきっかけになる。そういう出会い方がいいと思いました」

エコアルフ・ジャパンが店を構える渋谷スクランブルスクエアは、JR渋谷駅直結で利用者も多く、その顔触れは国籍性別年齢を問わないダイバーシティなものです。偶発的な出会いを生み出すには最適な場所と言えます。

「エコアルフの製品がそうであるように、店舗も再生可能な素材を使用するようにしています。鉄とコンクリートと、あとは植物がベース。店舗の見せ方にも気を遣っていて、通常のアパレルブランドだと製品=服が全面に出ていますよね。こちらでもそうした展示は行ってはいますが、店舗を歩くことでエコアルフのブランドコンセプトを体感できるような作りになっています。たとえば、エントランスの床面にはペットボトルやプラスチックが敷き詰められているのですが、これは素材がアップサイクルされるフローを視覚化したものなんですね。リサイクル・アップサイクルという言葉を知ってはいても、どういう流れか理解している方は少ないと思います。この床面を見ていただくことで、少しでも理解を深めていただけばと考えて設置しました」

実際の海洋廃棄物が展示されているのも、エコアルフならでは。

他にも服に連なったペットボトルのオブジェ、衣服の廃棄の現状を訴えるメッセージなどが店舗には展示されていました。リサイクルが“見える化”されたこの空間は、下川さんの意図通りに、「買い物を楽しんでいる内に情報をインプットできる」作りになっています。

そして、忘れてはいけないのが、エコアルフ・ジャパンはアパレルブランドだということ。コンセプトがどんなに素晴らしくとも、製品が売れなければブランド自体が存続できません。他のブランドのようにSS(春夏)・AW(秋冬)とコレクションを発表しているのですが、そこにはECOALFらしさが詰まっています。今回新たに打ち出す2023SSコレクション、「ロストカラーズ」についても紹介していただきました。

渋谷スクランブルスクエアのイベントスペースで開催された2023SS「ロストカラーズ」展示の様子。※展示は2023年3月6日まで。

「ロストカラーズのテーマは、”失われていく海の色”。例えば、サンゴの綺麗なコーラルピンクや、子どもに大人気なクマノミの鮮やかなオレンジ。こういった海の中の様々な美しい色が、気候変動によって今どんどん失われていってしまっています。ファッションを通じて、この環境問題について触れるきっかけを与えたいというのが、ロストカラーズのコンセプトです。いきなり環境問題について取り組みましょう!と言うよりも、身に着けるアイテムがサステナブルなものだった。そんなアプローチの方が受け入れられやすいですよね。ファッションだからこそ出来ることだと思います」

衣服の素材だけではなく、それを手に取るユーザーの意識に呼びかけるような仕組みを作ることで世界を変える。それは「使われる素材をリサイクルできるものにしておけばいい」というところに留まりがちな多くのファッションブランドに対するアンチテーゼとも言えます。

海洋廃棄物がファブリック素材になるまでの過程を表現した展示。

「皆さんもいくつかのブランドで素材の切り替えのニュースを目にしたことがあると思うのですが、大量生産・大量廃棄のスタイルが変わったわけではないので、実は環境問題の解決にはほとんど繋がっていないんですね。変えなければいけないのは、今のファッションの選考基準です。価格やデザイン、トレンドに左右されるのではなく、そのブランドはサステナビリティな価値観に基づいて運営されているものなのかが評価される必要がある。そうした流れを作って行かないことには、ユーザーの消費行動とメーカーの作り方は変わりません。ユーザーは今起きている問題のことを知って服の選び方を変えていく。そして、作り手であるブランドメーカーの企業は、環境負荷や人権問題などに真摯に取り組む。どちらかが変わればいいのではなく、両者が同時進行で変わっていかなければ、ファッション業界が環境汚染産業であるという事実は変わっていきません」

身の回りのモノの本質を知ることが、ライフスタイルをリデザインする

最後に、より良い地球を作っていくために、価値観をどうリデザインしていえばいいのかお話いただきました。

 「自分たちが生活の中で使っているものが何でできているかを知ることですね。例えば今朝起きて使ったマグカップでも歯ブラシ、あるいは今日着ている服。自分たちの身の回りのものがどうやって何から作られているのかを考えてみてください。ぱっと答えられないのではないでしょうか。食べ物に置き換えると、自分が何を食べているのかちゃんと理解できていないということなんです。怖い話ですよね。衣服に限った話ではありませんが、見た目や価格ではなく、モノの背景にあるものを理解した上で選択を重ねていくことで、生活が変わっていくと思います。これを使わなきゃ駄目とか、これは使っちゃ駄目だと思うのではなく、自分から何を選ぶのか決める。そうすると、窮屈に感じがちなサステナビリティとかエコとか、そういった言葉の捉え方が変わってくると思います。ある意味投資のようなものなので、楽しみながらやって欲しいですね」

Profile

下川雅敏
三陽商会 事業本部 コーポレートブランドビジネス部エコアルフ課長 兼 エコアルフ・ジャパン取締役

2006年三陽商会入社。

ライセンスブランドでのエリアマネージャー・トレーナ職を経て、ニューヨーク支社にて海外事業を経験。その後、セレクトショップ事業とマッキントッシュ ロンドンの企画MDに携わり、2020年3月の日本でのブランドローンチのため現職に就任。

国内におけるECOALFのブランディング・運営を担う。

また、業界の垣根を越えた企業や行政との合同プロジェクトの開発や、国内で活躍しているクリエイター・著名人らとのコラボレーションを重ね、エコアルフ事業を展開しながら、未来に向けた消費行動の変革をおこすきっかけを作るために行動する。

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