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村上諒平|インテリアアーティスト
村上諒平|インテリアアーティスト
家の印象を決めるのは、外観のデザイン。家の居心地を決めるのは間取りと、インテリアです。そしてそれは家に限ったことではなく、人が過ごす空間すべてに通じるもの。
今回取材させていただいたインテリアアーティスト村上諒平さんは、インテリアを通じて空間をデザインするstudio BOWLを運営。studio BOWLが手掛けた物件はインパクトがありつつも、生活にすぐに馴染んでくれそうな親しみやすさも持ち合わせています。
その不思議な魅力はどうやって生まれたのか、インテリアアーティストとはそもそも何なのか。空間をユニークにリデザインする村上さんにお話を伺いました。
インテリアアーティストとして、立体物を扱うことを生業としている村上さん。ですが、最初からインテリアに興味を持っていた訳ではありませんでした。その原点は“平面の絵”。幼き日の村上さんが“絵”という選択肢を選んだのは、実に子供らしい理由だったそうです。
「子供の頃って、面白いことが言えたり、運動ができたり、そういう目に分かりやすいものがアイデンティティになるじゃないですか。僕の場合、お喋りは得意じゃかったし、運動神経が良かったわけでもない。そんな僕に、親父が絵を教えてくれたんです。絵の描き始めは特に何も考えていなかったのですが、上手くなっていくうちに楽しくなってきたし、人が集まってきた。その時、自分が周りに対して切る持ち札はこれなんだって思いました」
絵を描くことを個性とした村上さん。それは小学校・中学校・高校時代も継続していきます。
「高校が進学校だったこともあり、周囲はほぼ勉強一色でした。勉強が全然できなかったというわけではなかったのですが、どうにも自分は周りの様に勉強を続けたいと思えなかった時に、課外授業の美術の先生が“美大に行くのも面白いんじゃないか”と言ってくださったんです。これ以上勉強はしたくなかったので、渡りに船という感じで進路を選択しました。だから、憧れの人が大学にいたからとか、美術で名を残したいからとか、そんなドラマチックな理由があったわけではなかったんです」
村上さんは現役で武蔵野美術大学油絵学科に見事合格。大きな理由がなくとも、絵とともに積み重ねてきた時間は村上さんを裏切りませんでした。ですが、周囲が現代美術や古典美術に傾倒する中、美術理論に対する確たる軸を持たなかった村上さんは苦悩することになります。
「同級生はみんな、制作した作品のバッググラウンドを語れました。この作品はこういう理由があって、こういう形になったのだという、意味づけに長けていたんです。僕はというと、一目見てテンションが上がる分かりやすい、イラストレーションのようなものが好きでした。それこそ、当時だと村上隆さんのようにインパクトがあって素人目でも分かりやすいものに惹かれていました。ただ、同級生に僕みたいなタイプはあまりいなくて、このままだと息苦しいかもしれない…そう悩んでいた時に、思わぬ課題が飛び込んできたんです」
その時与えられた課題は、“絵を描かないでもいいから、これまでにないやったことをしてみましょう”というもの。そこで村上さんが目を付けたのが、“ゴミ捨て場”でした。
取材は魅力的な雑貨がギュッと詰め込まれる『SUPER PERSONAL SHOWCASE』で行われた。
「当時の武蔵美のゴミ捨て場が、めちゃくちゃ面白くって。どこから運んできたのかバス停やカーブミラーが無造作に置かれていたんです。多分、制作に使うつもりで買ったり拾ったりしてたんでしょうね。でも、使われないものは卒業のタイミングで全部捨てられてしまう。当時はそんな面白いゴミがたくさんあったんです」
制作に使われることなく埋もれていたゴミたちを集め、村上さんはインスタレーションを作り上げました。インスタレーションとは、様々なモノを配置しながら空間を作り上げることで生み出される現代美術の一種。
村上さんが好むイラストレーションとはかけ離れているように思えます。ですが、とある共通点を村上さんは見出すのでした。
「意味のないものと捨てられてしまったものに意味を持たせる。これって言い換えれば、下克上ですよね。そして、この下克上精神は、ストリートから成りあがるグラフィティアートが持っているものでもあります。ゴミ捨て場から芸術作品を生み出すというインスタレーションは、グラフィティアートの精神と通じるものがある。そして、当時の僕はちょうど大学内の画材展の洋書セール安売りになっていた海外書籍を通してグラフティ アートに夢中でした。全部がうまくリンクして、インスタレーションに没頭することができたんです」
それから2年間。壁を乗り越え、立体作品を作り続けた村上さんでしたが、大学の卒業が近づくにつれて“この道で食べていけるのだろうか”という疑念が生まれ始めたそうです。
「将来のことを考えると、絵に戻った方がいいんじゃないかと思うこともありました。一方で、立体物に取り組んできた時間を活かしてみたい想いもあった。そこで、家具を作ってみることにしたんです」
そして、その家具づくりが今のstudio BOWLの原型へと繋がっていくことになるのでした。
家具の素材は変わらず、武蔵美のごみ。無料で手に入るものの、どんなものが手に入るかは分かりません。ですが、その不規則性こそを、村上さんは楽しんだそうです。
「たとえば、便器の蓋をテーブルの天板にするとします。元々の使用用途はまったく異なるものですが、天板を支える四本の足があれば、テーブルに見えますよね。そんな風に、拾ってきたものを“日常で需要があるジャンル”に変換させてみると、同級生からも先生からも楽しんでもらえるという確信ができました」
ゴミを拾ってきては家具に生まれ変わらせる。大学四年生の時間をひたすら家具づくりに費やした村上さんは、その集大成かつ卒業制作として“家”を建てることに。
「家具をこれだけ作れるんだから、もっと大きなやつも作れるだろう。という流れで、家を建てたんですよね。資材はもちろん、廃材でした。家づくりは問題なく出来たものの、ただ家を作っただけでは面白くない。もう少し意味を持たせたいなって考えた時、食事を出してみようと思いました。ご飯を食べている時って、会話が弾むじゃないですか。大学になってもコミュニケーションのコンプレックスがあったので、実は料理もコミュニケーションツールとして使っていて。料理を作って友人に振る舞うということもずっと4年間続けていたんですね。だから、自分が作った家と家具で、自分が作ったご飯を出せば、何か面白いことができるんじゃないかなって」
そのユニークな試みは見事に成功。大学構内にあったパン屋の社長まで“これは残したい”と訪れるほどの評判を呼びました。最終的に取り壊されてしまったものの、存続させるための署名活動まで行われたそうです。
なんとなくで始まった村上さんの美術大学生活。挫折を経験し、表現方法は絵という平面から、家具という立体へと変化しましたが、モノづくりをコミュニケーション手段へと昇華させました。手ごたえを感じた村上さんは大学進学の時とは異なり、自分の意志で家具づくりを継続するのでした。
「大学卒業後も、“誰かに不要とされたものを家具に生まれ変わらせる”ことに取り組みました。ただ、美術大学のゴミ捨て場にはもう行けないので、代わりにリサイクルショップを巡ったり、蚤の市でガラクタを安くで買ったりしていましたね」
安価で借りられた倉庫をアトリエとし、作品を作り続けた村上さんに転機が訪れたのは、大学の先輩から来た展示会出展の誘いでした。
「先輩後輩の関係があるから安くで出展させてくれるんだろうと思っていたら、ぜんぜんそんなことはなくて笑。最終的には、“お金は出すから好きにやらせてくれ!”と8メートル×1.5メートルの大規模な展示企画を持ち込みました。普通に考えたらめちゃくちゃな話ですが、展示会社の上の人も面白がってくれて、思い描いた通りの展示会をやらせていただくことになりました」
巨大な展示スペースを飾ったのは、これまで手掛けてきた家具のアーカイブでした。意味を失ったものに新しい意味を吹き込み、家具へとアップデートさせた展示物の数々は、展示会を訪れた人々を魅了。展示会で名刺を交換した方々から、村上さんへの仕事の依頼が始まります。依頼内容の多くは家具づくりではなく、卒業制作のような空間デザインでした。絵から家具へ、家具から空間へ。舞台を変えながらも、生きていくための道筋を見出したのは大学卒業から2年が経過した、2014年暮れ頃の出来事でした。
「最初のお客様は個人の方で、予算は100万円で面白いことをしてほしいというオーダーでした。当時の僕からすると、もう目が点になるくらいの金額で笑。思わず、50万円でできますよ!って返してしまったんですよね。冷静になって考えてみると、中古車一台も買えない金額だし、資材を運び込むための車両も借りられない。仕方なく地下鉄を使って角材を運び込んでいました笑。そこから場数を踏んで独学でものづくりで食べていく術を徐々に学び、studio BOWLとして活動していくことになりました」
数々の物件を手掛け、空間デザインを続けるstudio BOWLと村上さん。傍から見ると、かつて村上さんが時間を注いだ絵とは関係ない仕事のように思えます。ですが、“今でも絵描きの感覚は生きている”と村上さんは言います。
後編では、studio BOWLの歩み、村上さんの“視点”がぎゅっとつまったセレクトショップ『SUPER PERSONAL SHOW CASE』についてお伺いしていきます。
公開予定日:8月○日
Profile
村上諒平|インテリアアーティスト
2012年 武蔵野美術大学卒業。2013年 5月より屋号をstudioBOWLとし活動を始める。サラダボウルのように、異素材を掛け合わせる製作スタイルで店舗内装、什器造作、企業オフィスへのアートワーク提供、ウインドウディスプレイなど空間に関するプロジェクトを多岐に渡り行なう。
コンセプト“見たことのあるもので見たことのない、シンボリックなビジュアルを”
Creative symbolic visuals you’ve never seen using something you’ve seen.
既製品のハック、カラフルな色使いの構成を得意とし、既製品のもつ物そのものの要素を抽出し、組み合わせることで新しい見え方、価値観を提案している。