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山下麻亜子|食べチョク取締役執行役員COO
山下麻亜子|食べチョク取締役執行役員COO
飽食の時代と呼ばれる今、私たちの周りには多くの選択肢があります。スーパーで気軽に食材を購入する、あるいはコンビニエンスストアやファストフードで手軽に食欲だけを満たす。どんな選択肢も私たちは選べる一方で、忘れてしまいがちなことが二つあります。一つ目は、私たちの身体は日々の食事によって作られるということ。どんなものを選び、食べるのかは、未来の自分の身体をデザインしていくことと同じなのです。
そしてもう一つが、生産者の存在です。利便性が増すほど、食材を育んでくれる生産者の顔は見えづらくなっていきます。
そんな問題に一つの答えを与えてくれるのが、2017年に誕生した『食べチョク』です。食べチョクは生産者と消費者をオンライン上で直接繋ぐサービス。生産者の顔を見て栽培方法のこだわりやストーリーに触れながら、食材を選ぶことが出来るのです。
今回お話をお伺いするのは、食べチョクの運営会社であるビビッドガーデンCOOの山下真亜子さん。外資系コンサルティング会社に勤めていたという山下さんが何故食べチョクを選んだのか。その理由と、食べチョクの魅力、人生をリデザインするためのコツについて語っていただきました。
「最初のキャリアとしてコンサルティング会社を選んだのは、それまでの自分とはかけ離れた場所に身を置いてみたいと思ったからです。大学時代、あまりビジネスに関わってこなくて、英語も出来ない。社会に出て、どんな仕事が出来るのか。全然想像できなかったんです。だから、まずは特定の領域に行くのではなくて、ビジネスマンとして成長したいなと思って幅広い業界に関わることができるコンサルティング会社への就職を決めました」
山下さんが外資系コンサルティング会社でキャリアを積んだのは7年間。その間に、様々なクライアント企業のプロジェクトに携わってきました。プロジェクトごとにチームを組み、クライアント企業の課題を解決していく。誰かのために周囲の人たちと働いていくこのスタイルは山下さんに合っていたそうですが、別の想いも生まれてきたと言います。
「コンサルティングは依頼主である企業が価値を創る主体者で、我々はその伴走者という立ち位置です。ただ、色々なお仕事をさせていただく内に、今度は自分が主体者側に回って、新しい価値を創造したいという想いが生まれてきたんです。それで転職することに決めたのですが、行くならスタートアップやベンチャー企業だと決めていました。新しい会社の方が価値を創り出しやすいと感じていたからです」
そうして出会ったベンチャー企業の一つが、食べチョクを運営するビビッドガーデンでした。
「前職では忙しくて、あまり料理をしてこなかったんです。だから食材を手に取る時も、深く考えたことはありませんでした。面接で弊社代表の秋元と会った後にミニトマトをもらったのですが、驚いたんですよね。こんなに美味しいんだって。食べチョクのサイトで検索してみたら、トマトだけでもすごい種類があって。しかも、そのトマト一つ一つに、生産者のストーリーがあるんです。バリエーション豊富な食材、食材に込められたストーリー。インターネットで単純に買い物をするのとは違う楽しみがあるなと思いました」
季節によって異なる旬の食材がレコメンドされる。8〜10月のおすすめは、ぶどう。
外資系コンサルティング会社でのキャリアに区切りをつけ、山下さんがビビットガーデンに入社したのが2020年6月。2021年2月から取締役として事業戦略や採用など、全社横断的な業務に携わり、2022年5月には取締役執行役員COOへと就任します。
2020年はコロナ禍で、オンラインの購入機会が増えた時期でもありました。食べチョクも例外なくコロナ禍でサービスの認知度をあげ、ユーザー数を増やしています。ただ、コロナ禍の最中と現在で、ユーザー層が大きく変わった印象はないと山下さんは言います。
「雑貨店で思わぬ出会いをしたことってありませんか? 買うつもりでお店に入った訳ではないのに、たとえば伝統工芸のこだわりの逸品を見つけてしまって、ついつい手に取ってしまうとか。食べチョクにも似た面白さがあると思っていて、サイトを見ている内に自然と魅力的な食材に出会えるんです。美味しい食材を食べたいとか、家族に食卓で喜んで欲しいとか、そういう気持ちはどんな時も変わりませんよね。食べチョクはそうした体験を提供することを大事にしているので、コロナが落ち着いてきてからも大きな変化がないのかもしれません」
食材を届ける生産者にもまた、食べチョクを利用するメリットがあります。一般市場に流通させる場合、「大量に供給できること」「色形が揃っていること」など、食材の良し悪しとは関係のない前提条件をクリアしなければいけません。一方食べチョクは、「こだわりを持って少量だけ作られる食材」や「色形が不ぞろいでも美味しい食材」など、モノの価値そのものを評価できる仕組みになっているのです。
流通への条件が揃っていないものでも、生産者のこだわりを持って作られた美味しい食材に出会えるのが魅力。
「食べチョクにとって、生産者の方たちはクライアントでもあります。ですから、サービスの使いやすさは、生産者の方たちに対しても意識している部分ですね。文章が得意でない方もお使いいただけるようにフォーマット化し、売り方や見せ方、梱包の仕方などのサポートもさせていただいています。生産者の方々は作るプロであっても、販促のプロではないですから、我々が貢献できる部分には惜しまずリソースを注ぎます。伴走者みたいなものかもしれませんね」
食材の作り手と、その消費者。双方にとって居心地のいいサービスであり続けるために、伴走者としての食べチョクは常に新しい試みを行っています。今年からは旬の食材の触感や味をチャート化。食べチョクに数多く登録されている食材の中から、視覚的に好みのものを選べるようになりました。
桃の品種別チャート。好みの食感から桃を選べる。
ぶどうの品種別チャートは、甘さで品種をマッピング。メジャーな品種から耳馴染みもないものまで幅広く揃う。
「味覚って、主観的なものですよね。どうすればそれをユーザーとマッチングしていくのかは、とても大事だと思っています。一つの食材でも味や旬の時期が違って、知識がなければ手に取ることもありません。そこのお手伝いが出来れば、ユーザーにとっては世界が広がることになりますし、生産者の方にとっては新しい収益になります。色々な食材で試してみたいと考えていて、桃に続いてぶどう・りんごのチャートも作ってみました。果物好きな方に是非試して欲しいですね笑」
価値を生み出す主体者になるために食べチョクを選んだ山下さん。彼女のフィルターを通して語られる食べチョクは、これまで培ってきた「クライアント企業の伴走者」としての経験が存分に発揮できる場でもあるのだと感じます。
続けて、キャリアをデザインしていく上で心がけていることをお聞きしました。
「コンサルティングの仕事においては10年後20年後を見据えて動いて行く思考をとることが多いです。それも大事だとは思うんですけど、私がキャリアをデザインしていく上で大事にしているのは、自分に素直になること。責任の重い仕事をする時に、どこか格好つけた大義名分で自分を鼓舞するより、自分の心が自然と頑張れる方がいいと思うんです。私の場合、食とか空間とか、生活の一部を彩るものに、すごく助けられているなって感覚があって。前職はとても忙しくて、常にエネルギーを燃えたぎらせながら働いていたんですね。やりがいのある仕事でしたが、疲れる時もありました」
「そんな時に自分が癒されるのって、誰かと美味しいものを食べること、素敵な空間にいることだったんですね。でも、たとえばその美味しいものを作ってくれる生産者の方々がすごく潤っているかと言うと、そうでもない。構造的に収益が生まれづらくなっています。その問題を解決する主体者としての道を探っていた時に出会ったのが食べチョクでした。食べチョクに関わって感動するのは、自分が知っていると思っていた「食べ物」が持つとても大きな可能性と出会えること。日本全国にある出会ったことのない美味しさに出会い、出会ったことのない食材に出会えるんです。自分の地域では食べられない地方の食材と出会うことで、楽しさだったり、エネルギーを得られる場所が食べチョク。そう見てもらえると嬉しいですね」
こうした「自分の意思を大事にする」考え方は組織に対しても同じと、山下さんは続けます。
「組織自体も人の集まりで、いわば一つの大きな人格ですよね。似たような事業をしていても、その人格(価値観)で事業のモデルが変わり、多様なブランドが生まれます。組織をデザインする時も、こうありたいという理想像、生み出したい価値を見失わないようにしています」
会社の業績や組織内のしがらみ。仕事をする上で、私たちの周りには多くの要素が絡み合っています。そうした状況に囲まれている内に、働くことの意義を見失ってしまうことも。そんな時には自分の心を動かすものは何なのか。立ち止まって、自分の意思を確認してみる。そうすることで、キャリアも自分が関わる組織も前向きに変わっていくのかもしれません。
最後に、自分の人生をよりよくリデザインするためのコツについてお話いただきました。
「人生を過ごしていく時に、より楽しく、より有意義にしていきたいと思うんです。人生の中で仕事が占める時間の割合って、とても大きいですよね。だから私の場合、仕事やプライベートという分かりやすい枠組みであまり考えないんです。寝る間を惜しんで仕事をするのが重要な時もあるし、家族との時間を持つのが大切な時もある。等しく与えられた時間の中で、どう生きていくのか。そのデザインは自分でやるしかないですよね。辛いなって思う時もあるけど、自分で決めたことだから楽しくもあるし、頑張るための原動力にもなります。すぐに人生という大きなデザインをするのが難しい場合は、食べ物やライフスタイルから選び方を変えるのもいいんじゃないかなって思います。自分の身体を健やかにすることって、人生を豊かにすることでもあります。宣伝みたいになってしまいますが笑、食べチョクには美味しいだけではなくて、安全に作られたものが沢山あるので、体にも嬉しい。そんなささやかなことから自分の意思でリデザインしていくのも、いいんじゃないでしょうか」
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山下麻亜子|食べチョク取締役執行役員COO
京都大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。マネージャーとして主に消費財・小売業 の全社戦略、新規事業立ち上げやオペレーション改善の案件を主導。社内の人材育成採用にも従事。2020年6月に株式会社ビビッドガーデンに入社。2021年2月より同社取締役として、事業戦略の策定や採用、組織設計など全社横断的に管掌。2022年5月より取締役執行役員COOに就任。