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が~まるちょば|パントマイム・アーティスト
が~まるちょば|パントマイム・アーティスト
紀元前から存在したパントマイムは、ギリシャ語のパントス(すべて)とミモス(物まね)の合成語であるパントミモスが由来であるとされています。同じくギリシャを起源とする国際スポーツ大会で、ピクトグラムのパフォーマンスを披露し、全国にその名が知れ渡るようになった“が~まるちょば”。20年以上に渡ってパントマイムを追求してきたが~まるちょばHIRO-PONさんのパフォーマンスは、時に観客の心を揺さぶる。言語も国境も越える力を持つパントマイムの可能性について語っていただきました。
が~まるちょばが結成されたのは1999年のこと。デビュー当時からトレードマークはモヒカン。パントマイムは音がないため静かなパフォーマンスという印象を抱く人もいるかもしれませんが、が~まるちょばのパフォーマンスは力強く、生命力にあふれていると言ってもいいほどです。その原点は音楽にあったと、HIRO-PONさんは言います。
「入口はビートルズで、親父が持っていたレコードからの影響ですね。今でも夢はミュージシャン(笑)。若い頃から人前に出て、何かを表現したいという欲求があった。だけど、バンドとして他のメンバーと一緒に何かを作り出す作業っていうのが、どうしても自分には合わなくて。パントマイムを一人だけでやっていたときは、集客に限界があったし、知名度を上げるのは本当に大変でした。人に知ってもらい、ひとつの舞台を作り上げるのには、多くの人の協力があってこそ。あのビートルズですら、世界的に知られるようになったのはプロデューサーのブライアン・エプスタインの存在があったから。そんなこともビートルズから教えてもらったような気がします」
サイレントコメディー・デュオとして、活躍の場を世界にまで広げていったHIRO-PONさん。2019年、20年に及ぶデュオ活動に終止符を打ち、ソロとしてが~まるちょば継続。それまでに積み重ねた経験は、今もバックボーンとなっていて、2021年の国際スポーツ大会の開会式でのクリエイター参加を始めとして精力的に活動しています。
2022年8月~11月に公演を控えており、8月の舞台公演ではロックバンドの「ザ50回転ズ」とのコラボレーションを行うそうです。
「実は僕が企画したわけではなく、プロモーターの方が提案してくださったんですね。まだ、現段階では何も決まっていなくて、僕自身まだどんな内容になるか決まっていないんですが楽しみにしています。感性として「あーロックだなぁ〜」っていう瞬間があるじゃないですか? パントマイムをやっていてもそういう瞬間があって、多分そういうフィーリングを感じてもらって、今回の企画に繋がったのかなって」
ロックンロールとパントマイムがどんな邂逅を果たすのか。楽しみなところではありますが、少し前までパフォーマンスに携わる人々は活動を大幅に制限さていました。観客がいるリアルな舞台とオンラインとの違いについて、パフォーマーならではの視点から語っていただきました。
「舞台には空気で伝わるものっていうのがあるのを実感したよね。コロナ禍になってからは、一席ずつ空けるようにしていたんだけど、空気の流れが変わっちゃうんですよね。笑いって伝染するものだから、お客さんの入れ方とかお客さんとステージとの距離とか、小さなことがすごく大事になってくるんですよ。コロナ禍以前にはまだ戻れないけど、少しずつ状況が良くなっていくことに期待しています」
舞台のリアルな空気感を重要視するHIRO-PONさんは、オンラインでのパフォーマンスには懐疑的だと言います。
「多くのクリエイターやアーティストが動画配信をするなど、色々と模索することは否定しないですし、僕自身も二次元の映像でどこまで表現できるか考えた時期もありました。一時期は仕事がなくなって悩んでいましたしね。でも、パントマイムは観客がいてはじめて成り立つもの。僕個人としては無人島でパントマイムをやろうとは絶対に思わないし、無観客でパフォーマンスをするのはやっぱり違うのかなぁと。お客さんがいてこそのパントマイムだし、むしろそこを変えちゃいけないと思うんだよね。時代によって変わってしまうような表現だったら、そもそも本質的なところが間違っていたんじゃないのか?って思っちゃう。音楽もそうだけど、電子楽器が登場して、表現方法はかなり変化したことは事実ですね。でも、エンタテインメントとしての必要性や人の心を動かすという本質的な部分は少しも変わっていない。オンラインじゃ伝わらないものがあるということを知って欲しいし、舞台に足を運んでもらって、実際に心が動かされる瞬間を多くの人に体験して欲しいんです」
オンラインで何でも出来るようになった。ついそう思ってしまいがちですが、デジタルでは手触りや息遣いといった、身体感覚に基づくものを再現することは出来ません。リアルな舞台だからこそ感じられるモノを追求した先には何があるのでしょうか。
「パントマイムの歴史を振り返ると、“無いものを有るように見せる”という手法を発明した、マルセル・マルソーが世界的に認知されています。彼が活躍する前にはエティエンヌ・ドゥクルーという彼の師匠がいて、同じくドゥクルーに師事したジャン・ルイ・バローという映画俳優もいました。『街の灯』という作品では、チャップリンもパントマイムをやっていました。さらに彼らの活躍以前には、イタリアにコメディア・デラルテという言葉を使わない大衆演劇があったんです。マルソーがフランス人だということで、パントマイムはフランス発祥のものと思われがちですが、実は紀元前のギリシャにルーツにあって、“無いものを有るように見せる”ことだけがパントマイムではなく、言葉を使わない身体表現として、まだ未開発な部分があると思っています」
「僕にとってパントマイムは一生をかけてやるべき仕事だし、パントマイムの魅力を多くの人に知ってもらいたいと思って、20何年以上も活動してきました。でも、いつからかパントマイムそのものを知ってもらうよりも、が〜まるちょばさえ知ってもらえばいいと思うようになったんです。マルソーの存在が大きすぎることは確かなんですが、自分がパントマイムの可能性を広げる存在になれたらいいなと。が〜まるちょばがやっていることがパントマイムなんだって思ってもらえるようになるのが理想ですね」
良いパフォーマンスのために必要なものは、良いインプットもまた大事です。音楽、映画、読書などさまざまなインプット方法がありますが、HIRO-PONさんがどのようなことを日々の生活の中で意識しているのかお聞きしました。
「これが(パントマイムの)ネタになりそうだなっていうことには、無意識のうちにアンテナが立っている状態なんです。面白いと思えることが少なかったり、身体が弱っていたりするとなかなかキャッチできないんですが、ごく稀に「うわ〜、やられたー」という瞬間があるんですね。そういう瞬間をどんなジャンルにも求めてしまうし、そこにはエネルギーを感じるんです。僕にとっての良いインプットとはそういう表現や瞬間で、最近はスポーツにそれを求めていますね。結果が分からないし、自分の想像を超えるようなことをやってくれる瞬間がまさにそうなのかも知れません」
外部からの刺激をインスピレーションに変えて、HIRO-PONさんはパフォーマンスを創りあげます。そうして私たちが目にするパフォーマンスの裏には歴史があり、先人たちの努力があり、そして進化の可能性が残されている。もしかしたら、パントマイムのようなパフォーマンスだけではなく、私たちの生活にもそうしたRe・Designできる余白があるのかもしれません。
「いつも思うのは、“生きている人と生かされている人は違う”んだなぁということ。無意識のうちに“世の中に生かされている”自分がある一方で、“自分から生きたい”って思える瞬間がある。それがエネルギーの正体なのかなぁと。年齢とともに身体の衰えはあるけれど、体力=エネルギーじゃないんですよね。身体表現のひとつであるパントマイムだから、当然体力では若い人には敵わない。だけど、エネルギーなら負けない。歳を重ねることは、単純に衰えるってことではないってことを表現していきたいですね。それが僕なりのRe・Desginかもしれない。あと、さっきもいったようにパントマイムには未開発な部分がある。キャリアを積んできた自分だからこそ、そこに光を当てられるとも考えています。それが、もしかしたらパントマイムをもう一度デザインするということにもなるんじゃないかな」
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が~まるちょば|パントマイム・アーティスト
20代の頃、神の啓示のようにパントマイムを天職と決める。
ソリストとしての活動ののち、1999年にが~まるちょばを結成。
「サイレントコメディー・デュオ」として、パントマイムの固定概念を超えた演劇作品とショーで、世界の35カ国以上から招待され公演を行う。
2019年、約20年におよぶデュオ活動に終止符を打ち、ソロアーティストとしてが~まるちょばを継続する。
たったひとりで、言葉のない物語の世界へいざなう唯一無二の舞台公演は、観たものの五感に問いかけ心を揺さぶる。
2021年、東京2020オリンピック開会式では、クリエイティブチームのクリエイターとして参加。ロック、バイク、革ジャンをこよなく愛し、その造詣は限りなく深い。