Voyager
#20

文化を保護し、社会を変えるクラウドファンディング。
READYFOR 小谷なみのリデザイン

小谷なみ|READYFOR キュレーター

クラウドファンディングは、従来とは異なるお金の流れを生み出しました。個人であっても、共感を生むことが出来ればこれまでにない機会を得られるようになったのです。クラウドファンディングのプロジェクトは様々で、商品開発にまつわるものもあれば、社会的意義があるものも。

READYFORは2011年に立ち上がったクラウドファンディングサービスで、その当初から徹底して「社会性の高い」プロジェクトへのサポートを行ってきました。これまでにない資金集めの方法として新しい資本主義的な側面も持ち合わせるクラウドファンディングではありますが、READYFORのように社会課題解決に取り組み続けるサービスはそう多くありません。

今回お話を伺ったのは、そんなREADYFORで『文化・アート部門』を立ち上げ、『こどもギフト』のプログラムオフィサーを務める小谷なみさん。新しいお金の流れを生み出すことによって、社会はどうリデザインされていくのでしょうか。

想いを乗せられる仕事を探して。READYFORとの出会い

「私がREADYFORに入社したのは2017年だったのですが、その頃はベンチャーやスタートアップに転職する人は少なかったですね。ベンチャー企業に長く居続けたいという思いよりも、純粋にステップアップのために入る人が多かったんじゃないでしょうか」

「実は私もその一人で第二新卒の年代でしたし、面接時に“長く在籍するつもりはありません”と言ったんです。まさか、こんなに長く勤めることになるとは思わず笑。前職では、とにかくクリエイティブの下積みをしながら、NPO法人でプロボノとしてWeb周りのお手伝いさせていただくこともありました」

NPO法人ではクラウドファンディングも活用しており、それが当時出てきたばかりのREADYFORでした。プロボノという立場上、小谷さんが直接クラウドファンディングに関わった訳ではありませんが、その存在はなんとなく意識していたそうです。

「とはいえ、転職する時に、最初からREADYFORを目指してはいなかったんですよね。自分の中にあったのは、クライアントワークからは卒業したいなという想い。自社の事業をやっている企業に就職したい、という希望が根幹にあったんです。自分の想いを乗せられる仕事ならすごくいいなと思って、社会課題を解決する色々な企業を見させていただきました。そうして辿り着いたのが、READYFORだったんです」

他にも様々なクラウドファンディングプラットフォームが生まれる中「社会課題解決」に取り組むREADYFORは様々な業界・分野において活用が広がり、これまで2.5万件のプロジェクトを公開し、340億円もの支援を集めています(2023年12月時点)。最初はステップアップのつもりで入社した小谷さんもREADYFORの勢いと、キュレーターというクラウドファンディングならではの仕事に魅せられていきます。

社会を変えようとする熱と支援者を繋ぐ。READYFORキュレーターの役割

キュレーターという呼び名は日本では「学芸員」のイメージが強くありますが、欧米のキュレーターは展示会の企画すべてを取り仕切ることもあり、その権限は大きく異なっています。クリエイティブ、マーケティングなど様々な角度からのサポートを行うREADYFORのキュレーターは、欧米のキュレーターに近い役割を果たしています。

「接点作りの話と少し重なる部分もあるのですが、支援者さんがこれまで支援したプロジェクトの情報を見ながら、『どんな分野のプロジェクトに賛同してくださっているのか』、『どんなタイミングで支援したのか』、『期日ギリギリに支援してくださったとしたら、その決め手はなんだったのか』を分析し、ナレッジとして積み上げていきます。あまり前例のないプロジェクトであっても、そのナレッジをベースにしながら、サポートすることができます」

目標額の9倍を達成した国立科学博物館のプロジェクト

READYFORだけではなく、今では様々なクラウドファンディングプラットフォームが成熟の時を迎えています。コロナ禍では、苦境に陥った事業者への支援プロジェクトが多く立ち上がり、クラウドファンディングの規模は拡大しました。コロナ禍を経た後も拡大傾向にあるものの、これまでとは違う仕掛け方が必要なのだと小谷さんは言います。

「クラウドファンディングで集まる額は、ここ数年で規模が大きくなりました。実行者も国立機関やJリーグなど、一般的に知られている団体がクラウドファンディングを実施することが多くなってきました。世間とコミュニケーションする手法の一つとして、クラウドファンディングが選ばれるようになったんですね。この流れは加速しつつも、今後は“そのお金で未来はどう変わっていくのか”というコミュニケーションが重要視されていくと考えています」

クラウドファンディングの一歩先へ。「こどもギフト」の誕生

その先駆けとして2018年に始まったのが、「こどもギフト」です。こどもギフトは社会的養護の領域で活動をされている団体が解決したい課題の啓蒙と資金調達を支援するプログラム。児童虐待のニュースをきっかけに立ち上がった『#こどものいのちはこどものもの』の犬山紙子さんをはじめとするタレント・アーティストとの共同プロジェクトで、これまでに児童養護施設や里親家庭を支援してきました。施設の改修を始めとした現実の諸問題への支援もありますが、根本にあるのはこどもたちの未来を築くという想い。

小谷さんは「こどもギフト」の立ち上げから関り、今もプログラムをけん引しています。

「実行者の方と伴走させていただいていく中で、“より多くの人に活動や根本的な課題を知ってもらって、支援していただきたい”というお声をいただくことがありました。そこで考えたのが、業界やジャンルに特化し、そのジャンルに同じく課題感をもち情報発信力が高い方々との共同プログラムをつくることです。一つの団体では認知を広げられない範囲にも『こどもギフト』のスキームを使えばより広く課題を周知できるようになりますし、何よりそのジャンルに関するキュレーター側の専門性が高まっていきます。やるなら自分が思い入れを持って関われる領域が良いなと思って始めたものの一つが、『こどもギフト』でした」

第七弾まで続いている、こどもギフト

「お金を集めるための応援はもちろんなのですが、『こどもギフト』が大事にしているのは、“知られていない課題”を知ってもらうこと。こどもへの支援を目的としたクラウドファンディングプロジェクトで多くあるのが、食糧支援や児童養護施設の建設支援のような、比較的わかりやすい問題を解決するものです。他方、『こどもギフト』ではなかなか見えずらい問題にも取り組んでいて、例えば、虐待をしてしまった親御さんへの回復プログラムへの支援や里親のコミュニティをつくるプラットフォームの構築支援などです※。直接的かつ緊急的なこどもへの支援だけでなく、こどもの親や、これから親になるひと、そして文化的な支援など多角的に取り扱うようにしています」

『こどもギフト』以前にも、様々な寄付活動は行われてきましたが、このような形で情報を届ける仕組みは多くありませんでした。『こどもギフト』によって、こどもたちの未来を拓くためのお金の流れがリデザインされたと言えるのかもしれません。

※実行者:認定NPO法人Living in Peace。プロジェクト名:子どもの笑顔のために 虐待に至った親たちの回復を支えたい

2018年12月25日募集終了。209%の達成率でゴール。

より大きなお金の流れを生み出すことで、社会も変える。READYFORが目指す世界

クラウドファンディングの可能性を広げた『こどもギフト』。同時期に小谷さんが立ち上げたのが、READYFORの文化・アート部門です。

「アートと聞くと芸術作品を想像されるかもしれないのですが、文化・アート部門では舞台、音楽、伝統芸能、文化財の保護まで幅広い活動のサポートを行っています。転機となったのが、2022年の法隆寺のプロジェクトです。コロナで激減した法隆寺の維持管理費を支援していただく目的で行い、目標金額2,000万円に対して、1億5,000万円以上のご支援を集めました。2023年には国立科学博物館による、コレクションを未来に受け継いでいくためのプロジェクトを立ち上げました。これまでにも国立科学博物館には、研究者の方を中心としたプロジェクトを実施していただいていたのですが、今回は博物館そのもののコレクション保存を目的としていたので、目指す金額は1億円(法隆寺の目標金額の5倍)。我々としても前例のない挑戦でした。アート部門で培ってきたノウハウとREADYFORの知見を総動員して最後までやり切るんだという覚悟でした」

最終的に集まった金額は、約9憶1,600万円。実に916%の達成率でプロジェクトを完了しました。前例のない大きな目標に集まった、途方もない多額のお金。成功の鍵となったのは、キュレーターが重視する“接点作り”でした。

「今回のプロジェクトでは“#地球の宝を守れ”というメッセージを軸にしました。見方によってはセンセーショナルなメッセージではあるのですが、コレクションを守っていくことが文化を守ることに繋がっていく。そんな長期的な意味合いが強いんです。ですから今回のプロジェクトが単発で終わらないようにクリエイティブを考え抜き、今の世の中に最も伝わりやすいようにSNSを活用しました」

Youtubeで公開されたクラウドファンディングの告知映像。社会との接点を作ることで、注目を集めた。

「READYFOR全体で知見が溜まってきたこともあって、国立科学博物館のような事例も生まれてきましたが、違うスキームを使って大きなお金を流す方法も展開しています。たとえば、遺贈寄付サポート事業や休眠預金事業など、寄付者側のニーズを中心にサポートする事業です。寄付者の寄付ニーズを中心としたお金の流れをつくることができれば、多角的かつ大きなお金の流れがつくれると考えています。すべてのプロジェクトには実行者の方の想いやロマン、夢が詰まっています。彼らのパッションに応え、社会をよりダイナミックに変えていきたいですね」

クラウドファンディングで人生は変わる。人生をリデザインするためのヒント

これまで小谷さんが語ってくれた、クラウドファンディングの可能性。一方で、プロジェクトを立ち上げるハードルが高く、万人が利用できるものではないという側面も持ち合わせています。社会や自分の人生を変えたい。そんな想いを持っている人々は、どう動いていけばいいのか、小谷さんに伺いました。

「クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げるのは、容易なことではないですよね。自分の想いが受け入れられるのか、お金を集められるのか。不安が沢山あると思います。そんな時は是非、READYFORのホームページに訪れていただきたいです。ご自身と近い想いでチャレンジしている方がいるかもしれないですし、自分では見えなかった課題が見えてくるかもしれない。いきなり実行者になるのではなく、誰かの想いを支援してみるというのも良いと思います。他の支援者のコメントも簡単に見られるので、身構えずにまずは気になるプロジェクトに目を通して欲しいですね」

最後に、人生をリデザインするヒントをお伺いしました。

「クラウドファンディングは、支援を通じて新たな気づきを得て個々人の価値観が変わったり、大きな支援が集まった結果、民意を反映して国の政策や予算が変わったりと、社会を大きく変える可能性を秘めた仕組みだと思っています。READYFORのクラウドファンディングプロジェクトに寄せられる支援は、お金とともにそれぞれの”想い”や”意思”のようなものが込められています。どのような課題がこの社会にはあるのか。そこに賛同する人たちはどんな想いなのか。READYFORを通じてそれらを知り、関わっていくことで、人生が少しずつ変わっていくはずです。インターネットの資金集めの世界から社会や人生は変えられるんだということを、証明し続けていきたいです」

READYFORでは令和6年 能登半島地震の復旧・復興支援のための応援プログラムを提供しています。

詳細はこちらから。

Profile

小谷なみ|READYFOR キュレーター

Webコンテンツの編集ディレクターを経験した後、READYFORに入社。文化・アート部門を立ち上げ、社会的養護を必要とする子どもたちへの支援に特化した「こどもギフト」をけん引した。大型資金調達プロジェクトを主に担当。キュレーター事業部部長を経て、現在はサービス開発を含めた新規事業(ファンドレイジングキュレーター部)の部長を務める。

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