Meister
#03

良いデザインは日々の『妄想』から生まれる。
森田恭通のデザイン 思考。

森田恭通|デザイナー

類まれなデザインセンスで早くから頭角を現し、国内外で数多くの店舗や商業施設などを手掛けてきたGLAMOROUS co.,ltd.森田恭通さん。近年では東急プラザ渋谷の商環境デザイン、MIYASHITA PARK の『DADAÏ THAI VIETNAMESE DIMSUM 』 『 NEW LIGHT 』 の ほ か 、 AOYAMA Francfranc』、京都の『嵐電 嵐山駅』など、手掛けたデザインはどれもが強く印象に残ります。さらには、オンラインサロン『森田商考会議所』https://salondemorita.com)の運営もされ、エンドユーザーだけでなく、『もっとも経営者の思いをかたちにできるデザイナー』としても知られる森田さんに話をお聞きし、より良いデザインを生み出す秘訣を探ってきました。

タイムレス・デザイン

18歳の時に未経験ながら、今も30年以上神戸市内で営業が続くバー『Shot Bar COOL』をデザインしたことで、一躍脚光を浴びることになった森田さん。当時はファッションが好きで、新しい服を買ってはバーやディスコ、カフェに遊びに行く、どこにでもいるような男の子の一人のような青春時代を過ごしていたそうです。

「当時の神戸には、若者でも遊びに行けるような、おしゃれで気軽なバーがなかったんですよね。そこで、ニューヨークにあるようなバーがあればみんな行きたいと思うんじゃないかと考え、オーナーに提案しました。実はその時、ニューヨークに行ったこともなかったんだけど(笑)。だから、妄想と手探りで僕が想像するニューヨークのバーのイメージを具現化していきました。『ELLE』や『VOGUE』の切り抜きを職人さんに見せながら、『ここにグラフィティがあって』とか、『こんな感じで床や壁をもっと汚してほしいんです』と伝えると、『新しく作るのになんで汚すの?』と不思議そうに言われました(笑)」

結果、店名の通り、クールな空間が完成。森田さんの想像以上にデザインが受け入れられ、そこからデザイナーの道を本格的に歩み始めます。

「僕にとっては『Shot Bar COOL』が原点。ユーザーが何を望んでいるかを形にすることは今も変わっていない僕のスタイルです。“タイムレス”というキーワードを大事にしていて、色あせないデザインを心がけるのはもちろん、オーナーさんのご商売がうまくいって、スタッフも働きやすい環境でお客さんも楽しんでくれる。それが長く続いていくことのポイントなのではないでしょうか」

時を経ても、訪れる人たちに変わらぬ価値を提供し続けること。その店舗・施設を運営するオーナーのビジネスを長続きさせること。デザインとビジネスが密接に絡み合い、森田さんの仕事が形作られています。そんな空間デザインの秘訣はどんなところにあるのでしょうか。

Shot Bar COOL ⓒSEIRYO YAMADA

「大前提として、多様な条件や環境、経年変化を考慮しながら素材を選んでいます。『Shot Bar COOL』が今行ってもしっくり落ち着くところがあるのは、そういう部分が大きいんじゃないかな。ただ、石と木以外の素材は概ね人間の手が加わるので、そうした材料をさまざまなかたちで使う時代にもなってきている。今から50年後100年後を考えて、過去のデザインだなと思われないようにしたいですね」

使う人のことを常に考える

これまで数え切れないほどの案件を手掛けてきた森田さんですが、その中でも印象に残っているのはニューヨークの『MEGU New York』だそうです。物件を探すところから関わった物件で、とにかく苦労の連続だったとか。『MEGU New York』は1920年代の古い建物で、配管などを移動させる大掛かりな工事が必要でした。ビル側の協力を得ながら、水道や電気等も調整しながら作業したため、完成までに約4年の月日を費やしています。

MEGU New York Nacasa & Partners Inc.

「法律も厳しいし、周囲の目も厳しい。そんな状況で、日本のやり方で進めてもニューヨークでは通用しないことが山ほどあることに気づきました。郷に入れば郷に従えという諺もありますが、それならば「エイヤ!!」っとニューヨークの地場の業者さんとプロジェクトを一緒に挑戦しようと思ったんです。すると、物事が一気に進み始めました」

『MEGU New York』を機に、あらゆる国のプロジェクトに関わることになる森田さん。国によって風土もやり方も異なる中で、高いパフォーマンスを発揮し続けるために大事にしていることがあると言います。

「いかに自分がニュートラルでいられるか。その環境に順応できるか。最初に感じたこと等を胸に刻んでいます。そうしておくと、つい自分の好きな方に引っ張られそうになっても、この国のエンドユーザーは何を望んでいるのか?と、冷静になれる。その国で望まれていること、エンドユーザーが望むことをまず考え、そこに、こうすればみなさんがハッピーになれるのでは?という僕なりの提案を組み合わせています」

森田さんが手掛ける案件の中には新規デザインだけでなく、元々のデザインをリデザインする、いわゆるリノベーションも含まれています。直近で森田さんの記憶に濃く残ったのが、今年の1月にオープンした帝国ホテル内の『HOTEL BAR』。元からあるものを活かしながら今のパリのモードを表すべく、インターナショナル・クライン・ブルー(IKB)をイメージした深い青色をテーマカラーにリノベーションしたバーです。

「どこも壊さず、元からある照明にフィルムを巻いたり、イラストレーターのShogo Sekineくんにパリのグラフィティを描いてもらったりしました。人が認識するのは、まずは色、それから形なので、色を変えることはリノベーションには効果的ですね。洋服でも色違いだとまったく違うものに見えるカラーマジックと似ています。何より建物が38年前にしっかりと造られているだけに、活かせる素材が多くありました。イメージが変わったおかげなのか、リノベーション後は幅広い年齢層の皆様にお越しいただいているようです」

帝国ホテル HOTEL BAR ⓒDAISUKE SHIMA

妄想から生まれるデザイン

森田さんに多くの依頼が舞い込み、結果を残し続けているのは徹底した『顧客目線』があってこそ。それは利用するユーザーや物件のオーナーの気持ちを想像し、汲み取る『妄想力』に支えられているのかもしれません。そんな妄想力はどこから生まれてきたのでしょうか。

「僕は頭の中で、素敵な女性とレストランなどに沢山行ったりする妄想をしているから…ですかね(笑)。たとえば、一緒にお店に行ったときに、妄想の中の彼女が足を組んだらカウンターにぶつかって、ヒールに傷がついて落ち込んでしまう。食事をスタートする前からこれでは、テンションも下がってしまう…。ですが、もしこのカウンターの下の素材がやわらかいものだったら…?彼女は最初から最後まで笑顔でデートを楽しめたかもしれないですよね(笑)」

自分だけではなく、他人の感覚までにも意識を配る。それは、誰にとっても心地良い空気を創り出すヒントのようにも思えます。

「デザインとは、形よりも、シチュエーションで何が起きるかを考えながら創り上げていくことなんです。レストランであれば、料理が美味しく感じられて、より美味しそうに見えることが大切です。妄想で、40~50代ならば週に一回、20代なら少し背伸びをして月に一度か2ヶ月に一度の利用かな?というように利用シーンを思いめぐらせます。常にその繰り返しですね。身近な人たちをモデルにすることもありますよ」

残り9311日の人生を生きるということ

妄想力は、森田さんご自身の人生にも反映されています。森田さんのスマートフォンには『残り9311日』という謎の表示が。

「僕が80歳まで生きるとすると、あと9311日しかありません。終活ではないですけど、残り25年を楽しむためにはどうするかを考える時期に入ってきたのです。世の中には高級な病院併設の介護施設が沢山あります。しかし、僕がそこに滞在したいと思えるような施設には、まだ出会えていない。それならデザインしたいなと考えるようになりました。さらに言えば、死んだ後も自分の好きなデザインのお墓に入りたい。だって、「このお墓、森田らしいよね!」って後世に言い続けてもらえるかもしれないので(笑)」

森田さんの食事は、夜のみが多いので、それを想定すると残りの食事回数は約9311回。だからこそ、どんな人たちとどんなところで過ごすのかは大切です。センス良く、楽しく生きるために。こうなりたいというイメージを持って逆算して生きることが、今よりも素敵な人生をデザインできるきっかけになると森田さんは言います。

最後に、読者と若きデザイナーに向けてRe・Desginについて語っていただきました。

「日本は自然豊かで、最先端のITもあり、人も優しくて年間4回も季節が変わる豊かな国です。これまで世界中の様々なところに行かせていただいたのですが、コロナ禍もあり、あらためて国内を再度巡る機会を得て、日本の素晴らしさと、さまざまな気づきを持つことができました。たとえば、電線ひとつ見えず、視界には海と緑だけというアマルフィーみたいなロケーションが日本にはあるんです。東北まで足を伸ばせば、波のうねりや力を感じる海に岩場があって、僕からすればアイスランドのようにも見える。日本にはそういう素敵な場所がいっぱいあるけれど、地元の人はその魅力が当たり前に思えてしまって気づいていない。僕にとっては宝の宝庫なのでもったいないなぁと思います(笑)。少し見る角度を変えてみたり、足を運んでみると、今まで見えなかったことが見えてきたり、モノの感じ方も変わってくると僕は思います」

「今後、リモートワークが進み、都会から移住する人の中にはデザイナーも多く含まれてくることでしょう。彼らがその土地の素材を使ってプロダクトを作るといったことも考えられます。日本の面積は小さいかもしれませんが、一年を通じて気候に変動があり自然も豊かで、山間部もあれば平野部もあり、と起伏に富んでいるので、様々な条件の元、色々な素材を活かす可能性に満ち溢れています。そうしたものを活用しながら、まずはオリジナルを追求しつつ、自分の記憶の中にあるものをリデザインしてブラッシュアップする。それが次の時代のデザインになっていくだろうから、これからの若いデザイナーには期待しています」

Profile

森田恭通|デザイナー

2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行っている。

直近では、100年に一度と言われる渋谷再開発である「東急プラザ渋谷(2019年12月にオープン)」 の商環境デザイン、2020年開業の「MIYASHITA PARK」の「DADAÏ THAI VIETNAMESE DIMSUM」「NEW LIGHT」、2021年3月開業のW大阪「MYDO」のレストランデザインを手掛ける。またアーティストとしても活動しており、2015年よりパリでの写真展を継続して開催中。現在オンラインサロン「森田商考会議所」を開講中。

https://salondemorita.com

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