Seeker
#16

変化する社会の中で、
生み出すべき価値を問い続ける。
GO 砥川直大のリデザイン

砥川直大|クリエイター

企業の経済活動に直結しつつも、時には社会に対して強いメッセージを放つ手法の一つである広告。ですが消費者ニーズや媒体の多様化・細分化に伴い、広告に求められるものも変化してきました。

GOはクリエイティブの力で「社会のあらゆる変化と挑戦にコミットすること」を掲げた新しいタイプの会社。広告やPRに留まらず、クライアント企業の事業領域にも携わり、自らをThe Breakthrough Companyと称しています。

そんなGOに立ち上げ当初からジョインしたのが砥川さん。広告代理店でのキャリアを経て、様々なクライアントワークをこなしています。クリエイティブの力で社会はリデザインしていけるのか。実例を交えながらお話いただきました。

経済性重視から、人間性重視の社会へ。大転換の中のクリエイティブの可能性と役割。

開放的なGOのオフィスの中央には格闘技で使われるリングが。オフィスに訪れるクライアントとも、この「リング」でMTGを行うという。砥川さんの背後にある『Z特区』のオブジェクトは、2023年7月19日に実施された“Z世代から時代を学ぶ”リバースメンタープロジェクトのもの。

「子どもの頃は親の仕事の関係で、アメリカで暮らしていました。最初は言葉が分からず、周囲からしても“言葉が通じない外国人が来たぞ”と若干扱いに困ることがあったと思います。でもある時、折り紙で折り鶴を作って見せたら、“言葉が通じないやつ”から“すげえやつ”に(笑)今振り返ってみると、あれはパーセプションチェンジでしたね」

パーセプションチェンジとは、認識を変えることを意味する言葉。そして折り紙は言語を使わない、ノンバーバルコミュニケーションとも言えます。子どもの頃から無意識にクリエイティブが持つ力の一端に触れていた砥川さんですが、帰国後に最初に目指したのは外交官や国連職員など、グローバルな活躍が出来る職業でした。

「もともと“世のため人のため”という思いがあったのと、海外生活の経験が活かせると考えたからです。ただ、大学に進学してみると、自由な時間がたくさんできて、そこから少しずつやりたいことが変わっていったように思います。ちょうどその頃一人暮らしを始めていて、手料理にはまっていました。それが長じて在学中に調理師免許を取ったり、寝食を忘れて銀細工をやってみたり。ドッキリやサプライズを仕掛けたり。何故好きなのか。突き詰めて考えてみると、自分が考えたもの・作ったもので、人を喜ばせることが自分にとっての“楽しさ”なんだって気づいたんです」

そんな“楽しさ”を届けられる仕事として見出したのが、広告代理店の仕事。ですが、広告業界はインターネットの普及とともに大きく変わりました。同時に商品やサービスがコモディティ化し、モノよりコトが重視される時代において、広告が果たすべき役割はどこにあるのでしょうか。

「2003年に入社した時から比べても、広告に求められる役割は大きく変わってきています。表現という観点で言うと、最近特に顕著なのは、企業の社会貢献に対する意欲です。これは世界共通の話ですが、衣食住に関わることがほぼほぼ行き渡った中で、まだ未着手の課題や、人間のより高次な欲求を満たすことへと社会のアジェンダが移り変わっています。個人的には2015年に採択されたSDGsが、こうした変化を大きく後押しした一つの契機だったように思います」

砥川さん着用のTシャツはサスティナブルライフスタイルブランドO0u(オー・ゼロ・ユー)のもの。

「SDGsは17個のカラフルなゴールが注目されがちですが、正式名称であり主題は『Transforming our world(我々の世界を変革する)』です。SDGsは簡単に言うと、“経済性を重視する社会”から“人間性を重視する社会”にシフトしていくための目標設定で、つまり197ヵ国すべての国が、その『変革』に同意したということなんです。この意味を企業目線で言い換えると、それは社会の評価軸が変わったということを意味していて、“よりよい商品をつくっている”だけでなく、“よりよい社会をつくっている”ことが価値を持つ時代になったということです。これはとてつもなく大きな価値観の転換で、決して容易なことではありません。ただ、意義付けること、共感を生むこと、パーセプションを変えることを得意とするのが、実は我々クリエイターです。そのことに気づいた時、学生の頃に一度眠らせてしまっていた“世のため人のため”という想いが自分の中に復活してきました。当時はここまできちんと言語化できていませんでしたが、そんな想いを抱くようになり、クリエイティブの力をより広義に活かしたいと感じていた時に出会ったのがGOでした」

クリエイティブの力で社会のリデザインに挑む。GOで手掛けたプロジェクトの数々

株式会社GOは2017年に設立された『The Breakthrough Company』。大手代理店やPR会社など、様々なバックボーンを持つメンバーで構成されています。ミッションは、『クリエイティブの力で、社会のあらゆる変化と挑戦を推進していく』こと。

広告のクリエイティブはもちろんのこと、事業開発やファンド運営など、”広告表現”の作成を主幹事業とする従来のクリエイティブエージェンシーとは大きく異なる動きを見せています。

Gはまっすぐ、ボールドに力強く、挑戦を後押しするイメージを。Oは色々な仲間、クライアントや社員、関係者の力が合わさるイメージで手書きの円を重ねているという。

「変化と挑戦にコミットするは設立当時から言い続けていることですが、自分たち自身も変化と挑戦を続けています。2020年からTHE CREATIVE ACADEMYというアカデミー事業を始めていて、これまで1.6万人以上の方が受講されています。これからのビジネスに必要とされる“クリエイティブの力”を身につけることができる教育プログラムですが、ここで言う、クリエイティブとは単なるデザインやコピー、映像制作の技術ではなく、発想と実装を組み合わせてビジネスや社会に新しい変化を起こす力のことです。つまり、クリエイティブの力を身につけた人口が増えれば、それだけ社会に変化を生み出すことができ、ひいては、クリエイティブ市場全体の価値を上げていくことにつながっていくという考えです」

ともすると競合相手にもなり得るクリエイターを増やす。自社の経済活動だけを追求する旧来の発想では考えられないことでもあります。アカデミー事業は、そうしたこれまでの当たり前を変革していくGOらしさを象徴する事業と言えるのではないでしょうか。

続けて砥川さんが話してくれたのは、クリエイティブの力で社会にインパクトを与えた三つの事例。ReDesginでも取り上げたECOALF、コーセーの雪肌精、ライフスタイル提案商社の豊島が手掛ける『おまもりショーツ』です。

【ECOALF UPCYCLING ADS #資源を無駄にしない広告】

「日本でECOALFの1号店が出来るタイミングでのブランディングを担当させていただきました。ECOALFはすべてのアイテムを廃棄プラスチックや漁網など、リサイクル・アップサイクルした素材で作るスペインのサステナブルブランドです。つまり、資源を無駄にしないブランド。であれば広告もその理念に沿ったものがいいのではないかと考えました。そこで吉野家やKDDI、朝日新聞といった企業にお声かけして、掲載済みの広告(ポスター)を頂き、それらをECOALFの広告としてアップサイクルさせました」

掲載済みポスターにシルクスクリーンを貼り、ECOALFの広告は一つ一つ手作業で作られていった。

完成した広告は渋谷駅に掲出された。

「企画の趣旨に賛同頂いた企業からポスターを頂き、シルクスクリーンで白く下地をつくってから、ECOALFのロゴを一枚一枚プリントしました。広告を再利用して広告を作る。つまり、”商品”ではなく”再利用”を可視化したアイデアは大きな反響を呼びました。普通に考えれば、自社の広告を他社が広告に使用することは考えられません。ですが、より良い社会を作るためであれば、これだけの企業が協力してくれるということを示した、時代を象徴するアクションだったと思います。嬉しかったのは、参加してくださった企業へもポジティブな反応があったことですね」

【雪肌精リブランディング・SAVE the BLUE PROJECT】

続けてお話いただいたコーセーの雪肌精。新しいブランドを立ち上げたECOALFとは異なり、ロングセラーブランドを現代の価値観に合わせてアップデートした施策です。

「雪肌精は1985年に発売され、日本での認知率は80%近くを誇るロングセラーブランドです。ただ、ユーザー層の固定化や、若返りを図ったシリーズがデザインの違いで同じブランドに見えなかったり、コロナ禍の影響でインバウンドの売上が減少するなど、いくつかの課題がありました。まずは雪肌精のブランド資産を丁寧に抽出しながら、1つの大きなブランドとしての佇まいをつくっていきましょうという提案していて、そこにコーセーさんの発案で、長年温めていたジェンダーレスやサスティナビリティといったSDGs的な視点を織り交ぜていきました。雪肌精が元々謳っていたのは、和漢植物の力で透明感を与えるということ。そのメッセージを活かしつつアップデートさせた結果生まれたのが、“植物由来で男女問わず、すべての人が使えるもの=ジェンダーレスかつエイジレスな商品である”という表現です。羽生結弦選手には“雪肌精に男性用はありません”のメッセージでジェンダーレスを、新垣結衣さんには“おすすめの年齢はありません”のメッセージでエイジレスを訴求しました。機能訴求ではなく、今の時代においての立ち位置をリデザインしたわけです」

そのメッセージは性別・年齢を越えて大きな反響を呼びました。売上も大幅に回復したそうで、リブランディングの成功例と言えるでしょう。続けて砥川さんが取り組んだのは、雪肌精が2009年から行っているSAVE the BLUEプロジェクト。

『雪肌精 SAVE the BLUE~Snow Project~』キービジュアル

「SAVE the BLUEは、サンゴの育成活動として発足した環境支援活動ですが、2018年には森林保護活動も行うようになっており、サステナビリティなど時代の追い風を受けて、より活動を広げていこうとう狙いがありました。そこで提案したのが、商品名を活かした“雪”を保護する活動です。冬のレジャースポーツはリフトやゴンドラなどを稼働させるため、多くの場合、化石燃料を使って発電しています。そこで、北アルプス山麓に広がる山岳リゾートHakuba Valleyで使用される電力の再生可能エネルギーへの切り替えを支援するSnow Projectを立ち上げ、雪肌精の売上金※の一部を寄付する仕組みをつくりました」

※2022年12月1日~2023年1月31日の売上金を寄付。

藍の栽培・染色・仕上げを一気通貫に行う徳島の藍師・染師たち『BUAISOU(ぶあいそう)』によって、そのままでは販売することができない衣服が美しく染め上げられる。

他にも2023年7月にはSAVE the BLUE Upcycle Projectをスタート。サステナブルライフスタイルブランド『O0u (オー・ゼロ・ユー) 』さんから汚れがついてしまった商品など、そのままでは販売できない衣類を譲り受け、雪肌精のカラーを連想させる藍色で染めて再販売するプロジェクトです。どれだけ注意を払っていても、展示中や試着の際に汚れがついてしまったり、販売に相応しくない状態になってしまうことがあります。ほんの数ミリの汚れ以外は新品同様なのに、誰も袖を通すことなく廃棄されてしまう。そうした埋もれてしまいがちな社会課題に、クリエイティブの力で光を当てる試みなのです。

【Hogara おまもりショーツ】

同じく、隠れた社会課題にアプローチした事例が豊島の『おまもりショーツ』です。

「“女性のほがらかな明日をつくる”をコンセプトに、ライフスタイル提案商社・豊島の女性社員が中心となって立ち上げた『Hogara』というブランドがあり、そのファーストアイテムがオーガニックコットンの吸水ショーツでした。吸水ショーツが出始めたころは、各社女性のエンパワーメントの文脈に沿って、“女性を生理から解放する”というような発信をしていました。しかし、リサーチしてみると多くの女性が生理用ナプキンの代わりに吸水ショーツに切り替えることに不安を持っていました。そこで提案したのが、生理の始まる前、終わりかけのタイミングでナプキンと併用していくという部分使いです。そして、そんな日に吸水ショーツは、おまもりのような存在になれるかもしれないと考え、Hogaraは、吸水ショーツを『おまもりショーツ』と呼ぶことにしました」

おまもりショーツとおまもりブックレット。気軽に手に取りやすい、親しみのあるデザインに。

そして、この“おまもりになる”というコンセプトを具現化するために、元々あった正方形の収納ポーチを、文字通りおまもりの形へとデザインし直しました※。ネーミングとパッケージを変化させたことで、雑貨店などにも陳列しやすくなり、裾野が広がったと砥川さんは言います。

※おまもり型ポーチの在庫が切れ次第、正方形に切り替え。

「初潮を控えたお子様に対して、おまもり代わりに持たせるというコミュニケーションも出来るようになりました。大人が側にいなくても、おまもりショーツがあるから安心。そんな会話が自然に出来るように、イラスト付き生理についてまとめた『おまもりブックレット』をセットにしたものも販売しています。商品が持つ価値を、社会や市場においてどのように位置づけるのか。コンセプトからプロダクト開発まで設計できた事例だと言えます」

良い問いかけが、良い答えに辿り着く=人生をリデザインするための近道。

様々な企業とのプロジェクトに取り組む傍ら、砥川さんはプロボノにも参加しています。プロボノとはラテン語の『Pro Bono Publico(公共善のためにを意味する)』を語源としたもので、プロフェッショナルのスキルをボランティアに活用することです。

「様々な仕事に通じることだと思うのですが、10年近く同じ職場・業界に勤めていると、何のために働いているのか、外の世界から見て自分はどうなのか。疑問を持ち始めます。東日本大震災当時がまさにそのタイミングだったのですが、何もできずに終わってしまった。煮え切らない想いがある中で知ったのが、プロボノでした。最初に参加したのは池袋のホームレス支援団体のホームページ改修作業です。それまで、ホームレスはビジネスで失敗した人がなるというイメージを持っていたのですが、実際に話しを聞くと、発達障害を抱えている、家族に不幸があって孤独になってしまったなど、個人の責任ではないケースが多かった」

どんな物事も、知ろうとしなければ真実には辿り着けません。知るということは、問いかけをするということでもあります。その問いかけこそが、人生をリデザインするためのヒントになりうると砥川さんは言います。

「プロボノやクリエイティブに関わらず、大事なのは“良い問い”を持つことではないでしょうか。自分のスキルやナレッジは、どう社会に活かせるのか? この企業やブランドは、社会の何係を担うのか? そうやって問いを続けた先に、新たな価値の発見や、目指すべき未来の輪郭がはっきりしてくるのだと思います。無理に変わろうとするのではなく、良い問いを持ち続けることが、結果として自分自身のリデザインに繋がっていくと思います」

Profile

砥川直大|クリエイター

戦略を含めたコミュニケーション全般の設計から、表現までを一気通貫して行う。ナショナルブランドの大型キャンペーンからスタートアップの立ち上げ支援まで、幅広く企業のブランディングや新規事業開発に従事。クリエイティブの力で社会をポジティブに変えていくことを信念に、プロボノを含め様々なアクションを展開。SDGsやエシカル消費などの社会浸透を手掛ける。GOではSDGsおじさんと呼ばれることも。

Cannes Lions、Spikes Asia、PRアワードグランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど。公平な共働きを実践する二児の父。調理師。

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