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瀧口友里奈|経済キャスター
瀧口友里奈|経済キャスター
多数のテレビやラジオ番組の出演に加えて、ビジネスカンファレンスのMC・モデレーターやオンライン番組の出演までこなす、経済キャスターの瀧口友里奈さん。瀧口さんが取り扱うのは難しい題材ばかりですが、それを平易な言葉で紐解いてくれます。キャスターとして私たちに情報を届けてくれる一方で、瀧口さんにはいくつもの顔があります。東京大学工学部のアドバイザリーボードや新生銀行の社外取締役など、大学や企業の運営にも参画。キャスターの枠を超えて幅広く活躍しています。そんな瀧口さんに、キャリアやライフスタイルをより良くするためのヒントをお伺いしました。
東京大学在学中に有名アナウンサーが数多く在籍するセント・フォースに所属し、経済キャスターの道を歩み始めた瀧口さん。将来の選択肢が数多くある中で、なぜ経済キャスターの道を選び歩んでいるのでしょうか。
「『情報』に大きな価値を感じているからです。あらゆる分野の方とお会いしてお話をうかがう中で、情報を伝えることを通じて、少しでも人の人生や社会を変える力になれればと考えました。『情報』によって個をエンパワーすることで、社会のイノベーションを加速させることが、私のテーマです」
「情報を通して個をエンパワーする」ことへの使命感は、瀧口さんの原体験から来ています。幼少時にアメリカで過ごし、帰国子女として日本の学校に転入すると、英語を話せることで、瀧口さんは、周囲から「変わった子」だと思われているという、居心地の悪さを感じていたそうです。転換点となったのは、宇多田ヒカルさんのデビューでした。
「宇多田ヒカルさんは英語が流ちょうで、日米のカルチャーをバックボーンに持っている。同じように英語を話す私に対してもまわりから向けられる目がガラッと変わり、『変』から『すごい』に一気に変換されたように感じました。同じ人やモノでも見方が違うだけで、こんなにも変わるものなのかと驚いた体験でしたね」
YouTubeの東大公式チャンネル「東大TV」の「知の巨人たちの雑談」の企画プロデュースと司会をはじめ、多くのビジネスカンファレンスでモデレーターを務める瀧口さんですが、難解なテーマほど、相槌の打ち方や質問ひとつでニュースの解像度が大きく変わります。そんな重要な役割を担う瀧口さんが仕事に臨む上で大事にしていることは、『人の魅力』を伝えることだといいます。
「人やモノの見方が変わるきっかけは、感動だと思うんです。心を動かされ、視点が変わることで見える世界が変わってくる。そして、その感動を生むのは『人の魅力』であることが多いように感じています。専門的で難しい分野でも、『人の魅力』を通じて身近に感じ、『知る』ことで越境してその境目を超えていく瞬間は楽しいものです。取材対象からより良くお話を引き出すためにもは、自分を飾ることなくオープンでいることで、相手の方が安心して話せるように努めています。そして大事なのは、自我を出さず、自分の疑問よりも視聴者の方が疑問を抱かれるだろうなというポイントを重視すること。その上で、その分野ごとに存在する共通言語をよく理解し、一般的な概念や言葉に換言する。私は自分自身を『通訳者』の方と似たような役割だと捉えています」
「それから、その場で自分の意見を言う機会がなかったとしても、『あなたはどう思う?』と問われたときに、いつでも答えられるような自分の意見を持っておくことが重要だと考えています。相槌や質問ひとつで、相手の方はインタビュアーの知見や思慮の有無を感じ取られるものだと思います。『聞き出す』のではなく、『この人にだったらここまで話してみようかな』と自然と思って話していただくことが、『聞く』という行為の本質ではないかと思っているので、そのような自然なインタビューやモデレートを心がけています」
一方で瀧口さんは新生銀行の社外取締役・東大工学部アドバイザリーボード、Famieeのアンバサダーといった産学に及ぶ多様な分野で、経営や運営に参画しています。さらに今年の4月からは、東京大学公共政策大学院に入学。キャスターとしての活動に加えて、多くの分野に活動領域を伸ばしていますが、タイムマネジメントに苦労した時期もあったそうです。
「大学院に入学してからはゆとりが持てなくなり、落ち込むこともありました。そのとき、お世話になっている方から『大学院に通おうと思った時点で◯なんだから、まずは自分に◯をあげた方がいいよ』という言葉をもらったんです。それを聞いた時、とても気持ちが楽になりました。こうした考え方が広まればいいなと思います。たとえば、子育てしながらお仕事されている方も多いと思いますが、それをされている時点で◯なんですよって」
それから、自分の土台となる家族や気の置けない友人との時間を一番大切にしていると瀧口さんは続けました。家族や友人との時間を作り、まずは自分が気の抜ける時間を大事にする。そうすると自然と力が湧いてきて、仕事も頑張れるのだと。
何を土台にするのかは個人で異なりますが、道に迷いそうな時、忙しさに潰れそうな時には、「自分のベースとなっているもの」は何なのか、立ち止まってみるのもいいかもしれません。
そんな自分の中に確かな軸を持つ瀧口さんにとって、今関わっている多様な分野は全て地続きになっている感覚があるそうです。
「キャスターの仕事も、東大工学部のアドバイザリーボードの仕事も、私にとっては世の中のイノベーションを加速させるという目的に関して共通していると思っています。もちろん、その場によって課題は違うので、打ち返す内容は変わりますが、基本的にどこでも同じ目的とスタンスを持って発言しています。大事なのは、アカデミアでも企業でも、そこで使われている共通言語や文化を理解した上でそれぞれに対し、どんなアウトプットをするかを考えることだと思っています」
幼少時は、アメリカの学校や社会で、異文化にふれた経験を持つ瀧口さん。サラダボウルのようにさまざまな人種が混ざり合い、国が作られているといわれるアメリカから日本に帰国したことが、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)について発信するきっかけになったそうです。
「冒頭でも触れたのですが、日本に帰って来たら学校で肩身が狭くて、異質な者として捉えられていたような感覚は強く記憶に残っています。一方でアメリカでの学校生活では、日本人だからと差別されたことはなく、むしろ違いを面白がってくれたんです。たとえば、おにぎりや折り鶴を持って行くだけで、『何それ?』とクラスメイトが興味を持ってくれて、異質なものを面白がられました。しかし、学校外では露骨なアジア人差別も体験したこともあります。アメリカで両面を経験できたことと、日本に帰国してから感じたこと、その時の気持ちや記憶は自分の中にずっと持ち続けてきました。何においても、知らないことから誤解が生まれますし、恐れにも繋がります。だからこそ『情報』が個に広く伝わって、それが力になる世界になればという思いにつながりました」
ここ数年、大企業中心に日本でもしきりにD&Iの大切さが叫ばれるものの、企業のブランディングの一貫としてかたちだけの印象があるのも事実です。それが川下にまで浸透するために、どんなアクションが必要なのでしょうか。
「様々な経営者の方にお話を聞く中で私が感じたのは、D&Iのために動きたいと思っている人が社員の方々の中にいても、その意思を示すことのできる機会が少ないということです。社員が意思表示をするきっかけ機会を作ることが、トップに求められていることだと思います。川上から川下に浸透させるというよりは、川上がパッと光れば、それに呼応するように川下にパッと光る人が出てくるというイメージです。以前取材させていただいたホットリンクのCEOの内山幸樹さんは、会社としてD&Iに取り組むという明確な宣言を出したそうなのですが、その後LGBTQの当事者ではない社員の方が自主的にレインボーカラーの会社のロゴをつくったり、一見D&Iには興味のなさそうに見えていた社員の方がそのロゴのシールをせっせと社内に貼られたりしたそうです。社員が意思表示やアクションを取りやすいコミュニケーションをいかに作っていくかが大切だと思います」
瀧口さんのSNSには、経済や時事ネタだけでなく、アートや哲学、漫画といった幅広いジャンルの書評があります。読書家の瀧口さんですが、その読み方はとてもユニークで、まるで本と対峙し、禅問答するかのような印象です。
「結局は、何事も自分の中に答えがあると思うんです。溢れている情報に惑わされず、じっくりと時間をかけて自分と向き合うことが大切だと感じています。私にとって読書は、自分自身を深掘りし、自分と向き合う時間のひとつです。実は私は、読書をするのがすごく遅くて、読みながら、『本当にその通りだよね』とか、『私はそうは思わないな』というふうに、いちいち会話しながら読むんですよ(笑)。本の内容に100%賛同できなかったとしても、本を読むことで自分の中で色々なことを考えられたときに、その本を読んでよかったなと思います。読書中、いかに充実していたか?が重要で、書評はほとんど趣味ですが、私の感想を通じて、誰かがどこかで新しい本と出会えるきっかけになれたら嬉しいなという思いで発信しています」
本に込められているもの、そして書評もまた、『情報』です。子供の頃から今に至るまで、瀧口さんの中心には『情報』への関心があり、そこから仕事や趣味に広がっているのだと感じます。
「様々な情報がある中で、自分が何を大事にしたいか?を突き詰めて、削ぎ落とすことで本質が見えてくると思っています。それには自分の内側の声を聞くことが大事です。これまで経営者やアスリートの方にも取材させていただく機会が多くありましたが、共通して言えるのは、内省的であること。自分の内側を振り返ることで、自分を成長させながら、未来のイメージをふくらませる時間が重要だと思います。原体験が未来への引力になる方もいるでしょう。そうした部分に焦点を当てれば、自分の中に軸ができるのではないでしょうか。仕事にしても、自分がなんのために尽くしたいかが重要です。それが決まれば、軸がブレることなく、楽しく仕事できるのではないかと思います」
Profile
瀧口友里奈|経済キャスター
セント•フォース 経済キャスター
東京大学工学部アドバイザリーボード/新生銀行 社外取締役/株式会社グローブエイト代表取締役
幼少期に米国に滞在。東京大学卒。在学中にセント•フォースに所属し、以来アナウンサーとして活動。「100分de名著」(NHK)、「モーニングサテライト」(テレビ東京)、「CNNサタデーナイト」(BS朝日)、経済専門チャンネル「日経CNBC」の番組メインキャスターを複数担当するなど、多数の番組でMC•キャスターを務め、ForbesJAPANエディターとして取材•記事執筆も行う。
経済分野、特にイノベーション・スタートアップ・テクノロジー領域を中心に、多くの経営者やトップランナーを取材。本年から、東京大学 公共政策大学院に在学中。「個のエンパワーメント」「D&I」「社会のイノベーションの加速」を目指し株式会社グローブエイトを設立。