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#28

誰かの“ゴミ”は、別の誰かの”その人らしさ”になるかもしれない。
studio BOWL村上諒平のリデザイン 後編

村上諒平|インテリアアーティスト

平面の絵から、空間という立体物へ。インテリアアーティスト村上諒平さんの変遷を辿った前編。それは、傍から見ると大きな方向転換であり、かつての歩みに区切りをつけたようにも見えます。

ですが、連なりはあるのだと村上さんは言います。後編では、村上さんが感じる“かつての絵の歩み”と“現在のstudio BOWLの歩み”の重なりからお話いただきました。

絵の経験は生きている。変わったのは表現ツールだけ

「案件に取り掛かる時、僕の場合は最初に3Dソフトを立ち上げるのがほとんどです。空間デザインなので設計図を書けるほうがいいとは思うんですが、苦手なんですよね。なので、いきなり立体から入ります。どの角度から見てもモノと素材のレイヤーと色合いが平面として魅力的になるように、ひたすら作りこんでいくんですね。3Dソフトを使ってはいますけど、視界に入れば“平面の世界”の話になるじゃないですか。だから、僕の中では描く道具が筆から変わっただけという感覚なんですよね」

3Dソフトで描かれた村上さんの設計図。視覚的なインパクトが強く、説明されなければイラストレーションのようにも見える。

「たとえば、オフィスのエントランス部分の作りこみには限界があるじゃないですか。オフィスに入った時に、テンションが上がるものを用意できるかが重要だと思っていて。お客様(依頼主)のお客様に楽しんでもらうにはどんなビジュアル=絵がいいかを考えるんです」

そうして作り上げたイメージを、現場に入る美大出身の仲間たちと共有。大工道具を片手に具現化していくのがstudio BOWLのスタイルです。そんなstudio BOWLのホームページには、スタジオ名ともに“インテリアアーティスト”という言葉が記載されています。

これは、村上さんが独自に創り上げた言葉で、“インテリアで美術作品を作る”という意味合いではないのだとか。

「通常、空間やインテリアデザインに少なからず求められるのは最低限のホスピタリティと使いやすさです。でも、studio BOWLに求められるのはそこではなくて…というよりも、そう思うようにしているといった方が正しいのですが、使いづらくてもいいから弾けるような特徴があるもの。それこそ2秒で相手の心を、ぐっと掴むのようなものなんです。この一瞬の勝負をどうするか考えた時に、やはり重要になってくるのがビジュアルのパンチ力。デザインの話とは少し違います。何よりstudio BOWLには美大出身のメンバーが集まっているのだから、その要素を前面に出したい。それで生まれたのが、インテリアアーティストという言葉でした」

インテリアアーティストが手掛ける、子供のためのホテル

理想の子供部屋のような『PARK』。

studio BOWLの仕事はユニークなもので溢れています。どれもが印象深いものですが、村上さんの中で特別な意味を持つのがBnA STUDIO Akihabaraの『PARK』の2部屋。遊び心に溢れ、公園の遊具を持ち込んだようなデザインが特徴です。

「高校生のぐらいの時から子供が好きだったんですよね。当時は金髪ピアス、スパンコールのパンツを履いていたので、周りからは怖がられましたけど笑。自分が早くに子供を授かったこともあり、子供たちに楽しんでもらえるような仕事をしたいとはずっと考えていました」

“子供たちが泊りに来たくなるような部屋”を目指して『PARK』を作るにあたり、村上さんがイメージしたのは二種類の子供でした。楽しいと感情を爆発させるタイプの子と、そうでなくとも楽しめる子。その子供たちに楽しんでもらうため、次に注目したのが、ホテルそのものが持つ特性でした。

「普通の店舗だと、導線がきっちりと定められているじゃないですか。アパレルなら、入り口があって、回遊ルートがあって、お客さんの動き方が大体決まってきますよね。でも、ホテルは“部屋”だから導線を定めなくていい。そこが面白いなと思って、“子供がやりたい!”と思いたくなる要素を詰め込みました。天井が低い部屋にロフトを入れて、子供たちが好きそうな狭さや昇り降りのある空間を演出してみる。普通はベッドの下に入ったら怒られてしまうけど、あえて“ベッドの下に入った方が面白い”と思わせる構造にしてみる。ジャンプしたら届きそうなところにおもちゃがある…のように、自由にやらせていただきました」

こちらの記事でも紹介したことがあるBnAホテル。村上さんが手掛けた部屋は一目見ただけで飛び込みたくなるようなわくわく感が。

子供の目線で、子供のために作った部屋。それは、“大人”から依頼される通常の物件とはまったく異なるものです。“子供”という自らのライフステージの変化も相まって、心に深く刻まれることになりました。

両手いっぱいのガラクタに意味を見出すという幸せ

studio BOWLとしてクライアントワークを積み重ねる傍ら、村上さんは代官山に『SUPER PERSONAL SHOWCASE』という雑貨セレクトショップをオープンさせます。

店に並ぶのは村上さんが買い集めた玩具やアクセサリーや食器など。色も形も年代もバラバラで、アーティストの部屋の中に飛び込んだような印象があります。

「クライアントワークの傍ら、大学の時のような廃品からの作品作りは続けていました。だから最初は、自分の作品づくりのために色々なモノを集めていたんです。僕の作品作りはゴミをアップサイクルして意味と価値を持たせるというもの。でも、リサイクルショップを巡って材料を見ていくうちに気づいたんです。組み合わせてアップサイクルしなくても、これ単体で意味を見出せるんじゃないかって」

店内には“きっと何かと出会える”という期待感が。ついつい奥へ奥へと進みたくなる。

「たとえば先日、若い女性が海外の掃除機のフィルターを買ってくれたんですね。何に使うのか聞いてみたら、“中にコップを入れて、花瓶みたいにするんです”って。そんな風に意味を見出してもらえるのが嬉しいし、狙いでもあります。もしかしたら、家に帰って“なんでこれを買ったんだろう”って思うかもしれない。でも、“買った理由”を自分の中から見つけ出すと、愛着が生まれると思うんですよね」

リサイクルショップや蚤の市の中では、“不要なものとして捨てられた・売られた”モノたち。ですが、その一つ一つの色や形、素材感を見ていくと魅力が見えてくる。武蔵美のゴミ捨て場に通っていた村上さんならではのセレクトと、studio BOWLの仕事を通じて培ってきた“見せ方”。この二つを融合させたのが『SUPER PERSONAL SHOWCASE』なのです。コンパクトな立地ながら、店には大人から子供まで楽しめる仕掛けが詰まっています。

「雑貨が好きな人って、店の中を一通りバーッと見たあとに、特定の場所で立ち止まるんですよね。それがどんな低い場所にあっても、しゃがんでじっくりと見てくれる。だからこの店では高低差や、棚と棚の隙間もわざと作っています。宝探しみたいな感覚になって欲しいんですよね。子供たちだけが入れるキッズルームもあって、ここは『PARK』よりも秘密基地感のある空間になっています」

屋根裏の秘密基地のようなキッズルーム。

店を運営していく上でもう一つ村上さんが大事にしているのが、上品さと清潔感。商品の多くが“かつての持ち主が手放したもの”だからこそ、その輝きが消えないようにどの空間 で見せるか、どういうセレクトの中で魅せるかが考えられています。

だから、ふらっとお店に来るだけでも居心地がいいし、発見がある。

「見せ方はだいぶ違うんですが、駄菓子屋に近いかもしれません。童心に返って、あれも欲しい、こっちも欲しいって、好きなモノを両手に抱えて帰っていく。高価なものを一つ買うよりも、自分の好きがたくさん詰まったものを沢山買う。僕はそういう買い物が好きなんですよね」

“今あるモノ”の見方を変える/知ることがリデザインに繋がっていく

自分の武器を得るために見つけた、絵という手法。その手法を立体物に置き換えた、廃棄物をアップサイクルした家具。そして、空間デザインにまで昇華したstudio BOWL。それらの活動の中から生まれた、『SUPER PERSONAL SHOWCASE』。

“モノに意味を見出す”歩みを続ける村上さんが新しく手掛ける家具プロジェクトが、“GOOD NEIGHBOR”です。

「studio BOWLの仕事を大きく定義すると、素材の掛け合わせなんですよね。素材と素材を組み合わせて、マテリアル同士のバランスを楽しむ。そしてそれが立体物になった時、何を隣に配置するのか。その積み重ねで空間をデザインしているわけですが、GOOD NEIGHBORも同じ考え方をしています。どんな素材、どんな形、どんな色のものが隣に来たら気持ちがいいか。いい響きが生まれるのか。そんな良き隣人のような家具を作っていく、ということですね。というのは表向きの答えで、私のアトリエにふらっと顔を出す田舎のおじさんがネーミングのヒントです笑。なんかおもしろそうなことやってるね!と、声をかけてくれるんですよね。その距離感がちょうどよくって、モダンなんだけどそんな肩肘張らない家具のコレクションになればいいと思っています」

最後に、人生をよりよくリデザインするためのコツについてお話いただきました。

「例えば、リフォームという選択肢は今では当たり前のものになっていますよね。少し前までは“新築するほどのお金がないから”のような見られ方もあったかもしれないですが、“今あるものに自分なりに意味を付け足していく”ことが大事だと思っています。だから重要なのはお金の大小ではなくて、意味付けられるもの、誰かがでは無く、自分が気になったものをとにかく集めること。家でもいいし、この店で扱っているような雑貨でもいい。それこそ、食材でも何でも構わないんです。今まで買ったことない食材って、自分で調理方法を調べますよね。そんな風に、失敗するかもしれないし、いつかは不要になってしまうかもしれない。でも、ふとした瞬間に意味が生まれるかもしれない。それが自分だけの好きを作っていく。そんなあやふやさも楽しみなつつ“自分なり”を見つけてながら過ごしていくのが、リデザインに繋がるんじゃないでしょうか」

Profile

村上諒平|インテリアアーティスト

2012年 武蔵野美術大学卒業。2013年 5月より屋号をstudioBOWLとし活動を始める。サラダボウルのように、異素材を掛け合わせる製作スタイルで店舗内装、什器造作、企業オフィスへのアートワーク提供、ウインドウディスプレイなど空間に関するプロジェクトを多岐に渡り行なう。

コンセプト“見たことのあるもので見たことのない、シンボリックなビジュアルを”
Creative symbolic visuals you’ve never seen using something you’ve seen.

既製品のハック、カラフルな色使いの構成を得意とし、既製品のもつ物そのものの要素を抽出し、組み合わせることで新しい見え方、価値観を提案している。

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